エピソード1 ヨコシマな奴ら

一年半のご無沙汰でしたが、みなさんはいかがお過ごしでしたでしょうか?
お元気でいらっしゃればなによりです。
しかしまあ、その間にも世界は色んなことがありましたね。
ドーナツ・ショップも肉マン事件で窮地に立ち、モチモチ食感の新商品で起死回生!
そんな巷の情勢にもめげることなく、我々は淡々とドーナツを食べ、コーヒーを飲み続けました。
相変わらずのおポンチなプライベート・エピソードを又ここでお話しできることをうれしく思います。

あれは確か去年の秋口のこと。少々肌寒い午後11時。
私は金森幸介宅近くの路上に車を停め、彼が来るのを待っていた。
しばらくして、ほの暗い街灯の向こうから人影が現れ、こちらに歩いてくるのが見えた。
雲の上を歩いているような世間離れした歩き方...生産能力を持った人間とは到底思えない。
間違いはなかった。金森幸介である。いつもの帽子、いつものスニーカー、いつものジーンズ
そして今日はダーク・グリーンの太い横縞のラグビー・シャツを着込んでいる。

その後の行動パターンは恐ろしいほど定型化している。助手席のドアを開け、
「ご~きげんよぉ~!」と笑福亭仁鶴ゆずりの挨拶を投げかけるに違いないのだ。
しかしその夜は違った。ドアを開け運転席の私を見やり、
いつものように「ご~きげ...」と言いかけたその時
彼の上半身は崩れ、胸を手で押えて悶絶し始めたのだ。
「ど、どうしたんや!幸介!」私の頭に冷たいものが走った。
「し、心筋梗塞...」
生産性は皆無だが、一応高年齢者である。遂にお迎えが..
誰がお迎えに?私の脳裏を某故人の顔がよぎったが、ここでは書かない方が無難。
よりにもよって自分が金森幸介の最期を看取ることになるとは..!
「..ククク..クク..」自身の胸部を押えて苦しみに耐えている金森幸介。
「び、病院行くか?..な、なんか言い残すことないか?」と私の問いに
やっとこ顔を上げ、「..笑ろとんねや!」と幸介。呆然とする私の胸あたりを指でさしている。
「ん..?何?」自分の胸を見て私はやっと事態を飲み込めた。
朝から外出していた私はその日の自分の服装をすっかり忘れていたのだ。
ダーク・ブルーの太い横縞のラグビー・シャツ..ご丁寧に同じブランドのスニーカーにジーンズ..
かくして五十男が二人、深夜のドーナツ・ショップにペア・ルックで出かけることになってしまった。
色違いっていうのがちょっぴりコダワリ?って言うてる場合やないわな。

駐車場に車を駐めてショーウィンドーを覗くと深夜にも関わらずドーナツ・ショップは賑わっている。
ガラスに映る我々..ヨコシマ・ボーイズ..足元に鉄の球をクサリで付けたら西洋の囚人だ。
「..俺ら..ちょっとOh!brother?..」なんて軽口にもいつもの力がない。
店内に入る。若い女性のグループの視線が気になる。
なんとか平静を装いながらカウンターで注文をする我々。
「え~っと、コーヒーとオールドファッションとハニーディップ」と私。
「ええとこ行くなあ。俺も一緒のんにしとこ」と金森幸介。
その時、後で順番を待っていたギャル二人が「クスッ!」っと笑ったのを私は見逃さなかった。
無理も無い。おっちゃんが二人、夜中にペア・ルックで同じドーナツをしかも2個づつ喰うんやもん。
誰だってラブラブ・ゲイカップルだと思うだろう。少なくとも私が目撃したらそう思う。
『幸ちゃん、明日何着て来るん?シマシャツ?じゃhiroもそうする~っウフッ♪』
なんて電話まで想像するだろう。

金森幸介も私もそのシャツを着るのは年に1、2度あるかないかである。
「偶然とは恐ろしい」と言いたいところだが、そうとも言えないのだ。
夏から秋に移ろうとするその日の気候がまさにラグビー・シャツを着るにベストだったのだ。
...と、のちに二人は述懐している。なんのこっちゃら。
そう、偶然と思われる事象にも必ずどこかに必然が隠れているのだ。

それから彼と会う時は必ず電話で「今何着てるのん?」と確認するようになったのである。
しかし、それもなあ...エッチなイタ電やないんやから。
でもヨコシマはやっぱ好きなのである。古今東西、ヨコシマ愛好家の天才は意外と多い。
ピカソ、ヘミングウェイ、ジャック・メイヨール、楳図かずお...
あんまし説得力ないけど。