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エピソード10 CD探しの旅 前編

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9月である。セプテンバーである。秋である。
しかし真夏日が数えるほどしかなかった今年の夏。
大阪はそんな冷夏のツケが回ったかのような暑さである。
むせかえるほどの熱気と店舗から漏れ出すエアコンとの混合気の只中、
真昼の心斎橋筋に私と金森幸介は立っていた。

珍しく昼間の活動であるが、いつものドーナツショップ&銭湯のようなフニャけた我々ではない。
今日の予定はズバリ”半日かけてCDショップ巡り!”である。音楽的である。本気(マジ)である。
ショーウィンドーに映る我々の姿も心なしか凛々しく見える。行くぜ。持ってろ掘り出し物!
意気揚揚とアーケードを出た瞬間、あまりの日差しにヘナヘナと萎えそうになる我々。
それでもなんとか士気を高め、一路アメリカ村へ。

夏休みも終わり、ウィークデーのアメリカ村にいつもの若者の賑わいはなかった。
私はサングラスを、金森幸介は帽子を目深に被って視線を気付かれないように通りを見回した。
そしてどちらからともなく、ため息交じりに呟いた。「薄着のギャル...いないね...」
仕方なく(?)我々は地下一階にある中古CD店に入った。
店内に鳴り響くヒップホップが地鳴りのようである。閉所恐怖症の私はこういう場所が苦手だ。
「す、すごい音やね..」と傍らの金森幸介に言おうとしたが、そこには最早彼の姿はなかった。
奥のワゴンに直行していたのだ。「バーゲンコーナー 200円~500円」とポップが貼られている。
この男の特売ワゴンを発見する能力は関西のオバチャンなみである。
私はこれから彼を”ワゴンマスター”と呼ぶことにしよう。
通常の棚を見ていた私だが、洋盤ロック”シ”のコーナーで目が止まった。
”C.W.ニコル”とある。
C.W.ニコルがCDを出していたのも驚きだが、洋盤ロックである。
しかも隣に並んでいるのがジョー・ウォルシュときてる。
ジョー・ウォルシュもまさか自分のCDが極東の地で、怪しい自然愛好家(ってなに?)の音源と
仲良く並べられているとは存じまい。
しかしこの二人が、焚き火でハムかなんか焼いてる光景はけっこう想像できる。
ここで私はめぼしいブツを発掘することは出来なかったが、金森幸介は3枚のCDをゲットした。
レジでの支払いを見ていると、なんと千円でお釣りをもらっているではないか!
CD3枚お買い上げ~!!恐るべしワゴンマスター!!

地上に出てすぐ近くのメガショップに入った。タワーである。
賑やかな新譜のデモンストレーションや試聴コーナーには興味がない。
いや、興味はあっても金はない。
だってみんな1枚2、3千円しちゃうんでしょ?我々は少くなくとも同じ投資で4枚はゲットしたいのだ。
新譜新譜と騒いでみても、CD盤にプレスされた時点ですでに過去の産物なのだ。
ひと月前も5年前も大した差ではない。
今3千円の新譜もいつか何百円でゲット出来る日がくる。その日を待てばいい。
時を経て色褪せてしまうなら、最初からきっとたいした音楽ではないのだろう。
な~んてビンボーニンの言い訳をしながら、ここも最上階に設けられたバーゲンワゴンへ直行。
しかしここでは二人とも目ぼしいブツは発見出来なかった。
下りる途中、上がってくるエスカレーターのタイトなニットの女性の胸元に目を奪われたが、
即座に後ろからゴツンと頭を叩かれた。「邪念雑念は禁物じゃ!」
さてもきびしいワゴンマスターと私のCDショップ巡礼の旅は後編へと続く。

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