エピソード106 森の町から

kanamori-kosuke.comのトップページに貼られたこの絵はアルバム「金森幸介」
のジャケットに使用された森英二郎氏の作品である。

大阪ミナミの高島屋百貨店のような建築物の屋上の庇に、映画”シティ・オブ・エンジェル”の
ニコラス・ケイジのように腰掛けて呑気にギターを弾いているのは金森幸介である。

「実際のミナミの町並みと幾分違ってますね」と指摘される方もいらっしゃる。
そう、この町は大阪ミナミのようで大阪ミナミでない ベンベン! なのである。
人通りに賑わうアーケードは戎橋筋商店街のようでそうでない。
カーラッシュの一方通行道路も御堂筋のようでそうではない。
御堂筋が二車線道路だったら、きっと大阪の経済は崩壊してしまうだろう。

大阪に住みながら、私も最近というかもう何年もこの界隈には出かけていないので
現在のここいらの様子を知る由もないのだけれど、南街会館ってもうないんですよね?
戎橋筋の入口にはシュークリームのヒロタがあったような...まだあるのかしらん。
南街会館側には、きんつばなんかを売ってる和菓子屋さんがあったような...
ちょっとムフフな大人のおもちゃ屋さんがあったのだけはハッキリと覚えているのだけれど。

森英二郎氏が大阪から東京に居を移されたのはもう随分と昔のことだから
私以上に大阪の町に対する記憶はオボロげであるはずである。
この絵の街角は森英二郎氏の脳内イメージが創生した場所なのである。
アーコさんが創世神である大阪モドキの「森の町」なのであり、
その中に佇む金森幸介だけが唯一のリアルな存在なのである。

今回は金森幸介のアルバム"50/50"のために描かれた「森の町」の五つの風景を
不肖私が勝手に解説させていただきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金森幸介の自宅の最寄駅のプラットホーム。
ひとりポツリとホームに立つ金森幸介は大阪市内への電車を待っているのか
世をはかなんでいっそこのまま...な状況なのかどうかは不明である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

淀川を渡ると大阪市内である。向こう岸には梅田スカイビルっぽい建物も見えるが、
やはり位置関係はなんだか実世界とは違うように感じられる。
阪急電車の鉄橋はもっとシンプルだったような気もする。
このアーチは並んで架かる十三大橋のイメージに近いかも知れない。
心配させられたが、金森幸介はちゃんと電車に乗ったようである。


 

阪急梅田駅を降りた紀伊国屋書店のあたり。金森幸介は梅田モドキの町にやってきたのだ。
エスカレーターで駅コンコースから降りる金森幸介。
公衆電話で喋っている女性は話がこじれているのか、なにやらエキサイト気味のようである。
紀伊国屋モドキ書店の角で人待ち顔の女性は傘を下げているので、
今日は夜にかけて雨になるかも。金森幸介が携えている上着もレインコートかも知れない。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


全国の方が「これぞ大阪!」とうなずかれるであろう景色である。
道頓堀川に架かる戎橋。通称ひっかけ橋である。
グリコの看板は超有名だが、これで果たしてグリコは販促効果を上げているのだろうか。
金森幸介はどうやら地下鉄御堂筋線に乗り、難波モドキで降りたようである。
彼の眼が前を行くOL風の女性二人組のヒップ部分に釘付けなのは現実世界と同様である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

西行き一方通行の道路は周防町通り。多くの人が行き交うのは心斎橋筋である。
現実にはもう少し離れていたと思うけれど、店頭にギターを並べているのは
「ミヤコ楽器店」であろう。
本日の金森幸介のお出かけの目的はどうやらこの喫茶店で知人と会うことだったようである。
店の名は「中村屋 つね」
カレーライスで有名な洋食店、新宿中村屋の流れを汲む店だったと思う。多分。
店名の由来が、明治時代に中村屋の創業主人が支援した画家の中村彝(つね)であるということは
後年知ったのだが、近くのYAMAHA心斎橋店に行った帰りにはよくこの店で
中華マンとコーヒーセットを注文したものである。
もしくは小大丸ビルの”アラブ”のカレーか”定食屋きよ”の唐揚げ定食が定番であった。
中村屋 つねももうかなり昔にアセンスという書店にかわってしまった。
周防町通りを挟んだ斜め向かいには今話題のドーナツショップがあるらしい。
店内で二人の人間を前に金森幸介はなにを話しているのだろうか。
ギターケースを提げて遅れてやって来たメガネの男と共に新しいバンド結成なんかを
企てているのかも知れない。


”マールボロ・カントリー”と同じく”森の町”もどこかにありそうで
実際には存在しない世界なのかも知れない。時間軸もどこか虚ろである。
文学や音楽がフィクションであるように、絵画の中の世界も現実とは異なった場所である。
糸川燿史さんの仕事などを観ると、どうやら写真の中の世界もそうであるらしい。
そんな”虚”の世界が、時として現物以上にしっかりとした輪郭を持った”実”として
感じられることがある。
かつての心斎橋筋は”よそゆき”の場所であった。
でも今はなんだか一年中が学園祭みたいな町になってしまった。
飲食店も”無国籍料理”とか名乗っても「そりゃ”国籍不明料理”やろ!」と
ツッコみたくなるような店ばかりである。時代...か?
東南にひろげた窓から心斎橋を行き交う”よそゆき顔”の人々を眺めた中村屋つねが懐かしい。
今や僕にとっての真実の心斎橋は”森の町”にしか存在しないのかも知れない。


”マールボロ・カントリー”に住む心優しき男を”マールボロマン”と呼ぶのと同じように
”森の町”の唯一の住人である金森幸介を私は敬意を込めて
”もりまん”と呼ぶことにしたい。