エピソード115 現代用語のクソ知識

「癒し」とか「いじめ」だとかいう新興の動名詞がどうも苦手であります。
用語とはそれが生まれた時点で、実存するしないにかかわらず、とりあえず確定されます。
ろくでもない不確実性要素の集合で出来ているこの世界に生きる我々としては、
テレビや新聞で賢そうな文化人の方々によってなされたこの「確定」にとりあえず
安心を得るわけであります。
我々はそれまで頭の中で混乱し続けてきた不確実のモヤモヤを
晴れて公式確定事実となった「癒し」や「いじめ」という新語によって心晴されるわけであります。
めでたしめでたし・・・いや、ぜんぜんめでたないっちゅ~ねん。

「いじめ」という現代用語が定着して、どうも世間はおかしな安全弁を会得したフシがある。
とりあえず(今日はキライな『とりあえず』をよく使います)「許すまじ!いじめ!」
と声だかに言っときゃ保身はバッチシなのである。
「校内でいじめがあった事実は確認されておりません」でも「いじめがあったようです」でも
同じである。
そんな未成熟でカルトな言葉で要約されるほど子どもたちの問題は単純じゃない。
そう、単純ではまったくないという話なのである。
「いじめはなかった」「いじめがあった」の単一側面の二項しか見ることの出来ないおとなには
絶対に問題は解決できない。
存在したし、現在も存在するし、これからも存在し続けることを前提に対処しなければならない。
それらと「闘う」意志がない子どもにもおとなにも解決は出来ない。
実際にはファイトは出来なくてもファイティング・ポーズだけはとり続けたい。
だいたい「シノギ」とか「カチコミ」とかの動名詞遣いはその筋の専売特許だったはずである。
それをよりにもよって公器であるマスメディアが平然と駆使するのも胡散臭い。

「癒し」も"healing"と同じ類の動名詞だろうけれど、なんだか怪しい。
現代用語とは近代医学によって発見された新病名みたいだ。
不確実でモヤモヤとした健康状態も病名が与えられることによって確定する。
それが幸せなことなのか結局僕には分からない。
「うつ病」という病名を初めて聞いたのもそう古いことではない。
病名によって確定されたことで「ああ私はうつ病という病気なんだ・・」と、しなくても良い
絶望を抱かされた不幸な人もいるかも知れない。
以前にお話させてもらった「孤独死」も同じだけれど、
「うつ病患者」「孤独死者」なんていう名前を無理やり冠せられるのはやっぱりイヤだ。
「1Q84」の青豆さんだって「私はひとりぼっちではあるけれど、孤独ではない」
と言っているではないか。

ともすればうつ病患者にもなりかねない今の私であるが、
なんともありがたい絶対的な「癒し」を受けているのである。
今私の元には金森幸介から頂戴したAretha Franklin五枚とOtis Redding四枚のCDがある。
不確実な世に生きる身として、この圧倒的な「確実」に身をゆだねる時間は
なにものにも代え難い。ああ音楽がこの世に存在してくれて良かった。

社会のいじめ役であるヤクザ関係の方々や、往時の絶好調悪徳不動産関係の方々も
やはり癒しを求めたと聞く。意外やそれも音楽だったのである。
絶好調時代のヤクザ&不動産関係の方々の車(主にベンツSクラス)のオーディオには
必ずテレサ・テンのカセットテープが差し込まれていたそうである。
切った張ったのシノギや地上げに暮れた一日の帰り道、ベンツのサイドガラスに映る夕陽。
「わしももう歳じゃけんのぉ。そないに無理はきかん・・・」とタバコをくゆらす。
ダッシュボードのスピーカーから「♪時の流れに身をまかせ~貴方の色に染められ~」
「テレサ・・ええおなごじゃけぇ・・・癒されるのぉ・・・」
なんとなく分かる気がする話でもある。テレサ亡きあとの主流は高橋真梨子だそうである。

PCでテレサ・テンを検索してたらなんと、Jennifer Warnesの
"I Know a Heartache When I See One"をカバーしているテレサを動画サイトで発見。
カスケーズの「哀しき雨音」かいっ!ちゅう歌い出しはご愛嬌でも、良い曲です。
まだ「癒し」という用語も無かったバブル絶好調期、誰も癒しなど必要としなかったあの時代。
ベンツ車上の疲れた老ヤクザが1970年代最後のこの名曲に切なさを感じたのかなと思うと、
なんだかやっぱ音楽があって良かったなと思う。

同時にAllee and Garett Narvinっていう若い男女デュエットもカバーしていると知った。
Alleeと思しき女性は若い頃のリンダ・ロンシュタットに似てエクボが可愛い。
男性の方は佐々木蔵之助を金髪にしたようなやさ男だが、素朴で好感が持てる演奏だ。
米国版ハンバートハンバートか?コンサバ系のホワイト・ストライプスか?
二人は果たして夫婦か兄妹か?この映像も動画サイトで観られます。
でも動画でコーラスしてる青年はダミーなんじゃないかな?
ほんとのGarettは動画にギターを抱えて数回登場する不気味なオッサンかも。
このオッサンはハリー・ポッターのスネイプ先生に似てる。
リンダと蔵之助とスネイプ先生・・・とにかく誰?こいつら。

今私の車のCDチェンジャーには五枚ともAretha franklinが挿入されております。
そないに癒されてどないすんねん!っちゅう話ではありますが、
「『俺は死ぬまでOtisしか聴かへん!』っちゅう音楽好きがおっても俺はそいつを信用するな」
と金森幸介は申しておりますので、遠慮なく癒されまくることにします。
でも『俺は死ぬまで金森幸介しか聴かへん!』というお方はちょっと健康的ではない気もします。