エピソード121 ある日突然

あ~る日突然ふたり黙~るの~
じゃなくて、あ~る日突然パソコンが黙りこんじゃったのであります。
金森幸介愛用のノートパソコンが突然死なされたのであります。
文字通りのサドンデスであります。

ある日金森幸介はパソコンを立ち上げようとして電源スウィッチを押したのであります。
しかしパソコンくんはウンともスンとも言わないのであります。
元々ウンとかスンとかパソコンが言っていたわけではありませんが、
まあ慣用句とはそういうもんです。

金森幸介は愕然とした。
昔は想像もしなかったが、現在ではパソコンがないととても困る。
携帯電話を所有しない金森幸介の電子メール送受信はすべてパソコンでまかなわれている。
知人関係、仕事関係の受信メールもメールアドレスもすべてパソコンに保存されているのだ。
iTunesには膨大な音楽データが保存されているし、エロサイトからセッセと拾い集めた
ムフフ画像もあるかも知れない。きっとあるだろう。いや、あるに違いない。

困った困ったこまどり姉妹の金森幸介は近くの家電量販店に瀕死のパソコンを持ち込んだ。
店の技術者による診断によると「ハードディスク・クラッシュ」
修理には7万円位かかるとのこと。しかも治ってもデータは救出されないと断言されてしまった。
そして金森幸介は途方にくれる。
金森幸介が使用してきたパソコンはすべて、初代幸介WEBの管理者であったKimsha氏から
頂いたものだったのである。もちろん今回クラッシュした機もそうである。
PC関連の仕事をされていたKimsha氏に金森幸介はことパソコン・インターネット周辺に関しては
オンブにダッコの状態でここまで来たのである。

しかし昨年、Kimsha氏が急死された。冗談ではなく、これもサドンデスだった。
私とタメ歳だった。やっぱり早い。早すぎる。長崎在住で、大阪とは離れていたけれど、
本当に頼りになる男だった。そして、なによりも親切な男だった。

パソコンも人間も突然死ぬものである。
人間はもちろん、パソコンの死も辛い。
なぜならば愛機のハードディスクの中身は「自分自身を映した鏡」であるからである。
以前、知人のパソコンがやはり突然立ち上がらなくなった。
彼はパソコンを購入した日本橋のPC専門店に持ち込んで診断を受けた。
店の修理受付カウンターで技術者がリカバリー・ディスクで起動を試みる。
横から心配そうにディスプレイを見る知人。
結果、無事パソコンは起動した。めでたし。めでたし・・・
で終わるはずが、そうではなかった。
技術者が「ハードディスク内のデータが無事だったかどうか、ご一緒に確認してくださいね」
と言うや否や、すべてのフォルダを片っ端から開きだしたのである。
知人の「・・ああっ!そ、そこは・・・」と呟く声も空しく、
家人に知られぬよう「民俗学研究資料」とタイトルされたフォルダが無情にも開かれた。
「KARA尻ふり動画」とか「女子アナ・パンチラ特集」などと題されたデータが
次々とスクロールされていく。技術者の顔色は寸分も変わらないが、
「こ、このエロオヤジ、この政情不安の時代に、なに特集しとんねん!」という
心の呟きが確かに聞こえた。知人はただ下を向いているだけだった。
あくまでも私の知人の話であって、私本人の話ではないので、よろしく。

と、まあ、事ほど左様に、パソコンの突然死とはショックであるという事を
言いたかったわけである。

金森幸介はとにかく途方にくれていた。
住む家は追い出され、病に見舞われ、財布は失くし、友は死んでゆく・・・
この上、パソコンまで奪っていくか・・・トホホにもホドがあるっちゅう話である。
失われたデータは諦めるにしても、修理代に7万円もかけるトンチキは出来ない。
しかし、パソコンは必要である。買い換えるしか手はあるまいが、
新品のパソコンに買い換えるには先立つものが・・いっそこの俺が先立ったろかい!
中古にしても、どないして探したらええねん。こんなとき、Kimsha君がいてくれたらなあ・・
・・・と長崎方面の天空に向かって遠い眼をする金森幸介であった。

同じ頃、私も途方にくれていた。目の前の机の上には伝票の山があった。
二月ももう末だというのに、なんにも手をつけていなかった。悪夢の確定申告・・・
伝票の山に埋もれたパソコンを目覚めさせ、「弥生会計ソフト」を立ち上げた時、
携帯電話の着信音が鳴った。知人からのメールだった。
私はそのメールで金森幸介を襲ったパソコン・トラブルを知った。
金森幸介の窮状を人づてに知った私は、自分も途方にくれているにも関わらず
「パソコンやったら、俺が代わりのん探したるがな。まっかせなさ~い!」と
気がつけば金森幸介に電話していたのである。
普通だったら「このクソ忙しいときに、そんなもん知るかい!クソして寝さらせ!」と
突っぱねるところだろうが、なぜか私はそうするしかなかった。なにかが乗り移ったようだった。
そしてツアーに出る金森幸介をおくったのである。

なんとか確定申告のめどが立った夜、私はネットオークションでユーズド・パソコンを探した。
手ごろな物件が眼に付いたので、とりあえず適当な価格を入札した。
私は今まで三台のユーズド・パソコンをネットオークションで落札している。
まあ、ノウハウは熟知しているといってもいいだろう。
次の日の深夜、入札終了時刻も迫ったので、オークションにアクセスした。
私が入札した物件には既に何人かが入札しているが、今のところ、私が最高額入札者である。
現時点での価格は、私が設定した「落札予想金額」の半分にも達していない。
このまま終了すれば、希望する価格の半額以下で購入できることになる。
現在オークション終了まで30分である。
しかし、ネットオークションでは最後の5分間で入札が活発化し、あれよあれよという間に
価格がつり上がり、結局けっこう高額になってしまうことがままある。
というか複数の入札者がいる場合、それが普通である。
押さえとして別の同等スペックの物件も二つほどチェックしていたが、
そちらの方はけっこう入札が入って、私の限度額をもはや上回っている。
現在入札している物件一本に絞るしかない。問題はどこまで対抗馬が競ってくるのか・・・
しかし、私が最高額入札者のまま、変わる様子がない。しかも入札額もまったく上がらない。
誰かがカウンターを手で押さえているように変化がないのである。
5分前になった。変化なし。3分前・・2分・・1分・・・
終了・・・「おめでとうございます!!あなたが落札しました」というテロップが
ディスプレイに表示される。あまりにあっけなくオークションは終了した。
私が予想していた価格の半額以下であった。
私は呆気にとられた。これは破格のお買い得ではなかっただろうか。

けれど「安い買い物をした~!」とここで安心できないのがネットオークションである。
代金を振り込んだはいいが、送られてきた商品がボロボロだったり、
落札価格があまりに低かった場合など「先に店頭で売れました」とキャンセルしたりする
タチの悪い出品者もままあるのである。
しかし、決済した二日後に送られてきたNECのノート・パソコンは
筐体に小さな傷はあるものの、作動にまったく不具合はなく、元気に立ち上がってくれた。
なんか「いい奴」っぽい、「人柄」ならぬ「物柄」を感じたりする機であった。
しかも商品情報には書かれていなかったが、DVDも焼ける「スーパーマルチドライブ」まで
搭載されていた。

私はなんだかうれしくなって、四国松山から帰還したてで爆睡中の金森幸介を電話で
叩き起こして報告した。「新しいパソコン君がやってきたぞなもし!」

私は本当にうれしかったのだ。
ふと、パソコンが送られてきた梱包の送り状に目をやると、送り主の住所が記されていたのだ。
「長崎県長崎市」

辛いことやイヤなことが満載で、途方にくれてばかりのゴミ溜めみたいな人生でも
時折雲の切れ目から天上の光が一条届けられることがある。

天国のKimsha氏、いや木村君、心強い支援をありがとう。
お陰で僕達はもう少しこっちで途方にくれながらも生きていけそうな気がする。
またいつかゆっくり逢おう。