エピソード126 私鉄沿線
♪改札口で君のこと~ いつも待ったものでした~
と、野口五郎くんが眼をシバシバさせながら歌ってからもう30年以上経ちます。
しかしこの歌って、五郎くん本人よりコロッケで聞いた回数の方が多い気もしますね。
ギタリストでもある五郎くんは、かのMr.335ラリー・カールトンとも共演していますが、
Santanaのヒット曲"Smooth"の日本語訳に「愛がメラメラ」なんて
屁みたいにチャラいタイトルを付け、さすがに温厚なカルロスをして
「シュリ・チンモイに言いつけて、ポアしてもろちゃる!」と少々的外れに
激怒させたという噂もあるそうです。噂ですけどね。
まあ、原曲からして元々相当チャラい気もするけれど。
当時の日本語訳といえば、なんといってもシカゴの”ロウダウン”ですな。
「♪生まれてから~いいことなど~ありゃしない~」って、あんたそりゃ暗過ぎっ!
北山修さん、あの頃なんか重かったんかな?ありゃしないって・・・
ピーター・セテラさんも「”ありゃしない”ハ ハツオンシニクイネ」と困り顔だったそう。
まあ自分のヒット曲をカップヌードルのCMソングに流用されるよりはマシかな。
新御三家のもう一人、郷ひろみの♪あ~ちち~あち~もサンタナがらみでしたっけ?
あれはリッキー・マーティンでっか?まあ、どうでもいいけれど。
西城秀樹はんもフリオ・イグレシアスの息子かなんかのカバーしてましたね。
新御三家、ラテン萌えやったんや・・・どうでもいいけど。
今回はそんなことをお話したいわけではまったくありません。
こんなタイトルを付けたのがそもそもの間違いでした。
残暑のキビしさと世間のクレージーさに、もうなにがなにやら・・・
我らが敬愛する偉大なる指導者、金森幸介首領さまが居を移されて一年になります。
もう長い間、首領さまは同じ私鉄沿線に居を構えておられるのであります。
今回転居されたのも同じ沿線。というか、ほんのひと駅隣に移っただけであります。
阪急電鉄は関西の私鉄ではダントツの人気とステータスを誇る電鉄会社である。
同じ2DKでも阪急沿線と京阪沿線では家賃が2、3万違うとさえ言われている。
特に「北摂地域ってオッシャレ~!」と若者に人気が高いらしく、
その名も「阪急電車」と題されたハートウォーミングな小説がベストセラーになり、
映画化までされたというから、アッパー・イメージ満々のレールウェイである。
これがもし「京阪電車」というタイトルで映画化されたりなんかされた日にゃ、
主演は竹内力しかあり得ないバイオレンスなものになったことでありましょう。
首領さまが長年お住まいの市も小説で描かれた路線ではないが、オシャレな阪急沿線である。
以前の住居があった駅周辺などはやはりとても上品な佇まいであった。
趣味の良い喫茶店があり、道往く人もなんとなく小奇麗な感じであった。
そして前年の転居である。引越しといってもひと駅移動するだけである。
文化圏はほぼ同じであろうと私は思っていた。
ということで何も気に留めずに引っ越しの手伝いなどをした私であった。
荷物の運び込みもひと段落し、金森首領さまが「hiro、なんか食いに行こか」とのたまわれた。
手伝いのお礼に奢って下さるというのである。おお、身にあまる光栄である。
「ハンバーガーでええか?」「も、もちろん充分でございます」と私。
「歩いていける距離や。マックやのうてモスやけどな・・・」
モスバーガーといえば、なんといってもやはりマックよりも高級というイメージである。
プライスもチープではない。フライドポテトも皮付きである。
モスバーガーにタップリかけられているソースは、はみ出した分だけをおかずにして
食パン一斤が食えるといわれるほどである。
「きんぴらライスバーガー」に至ってはもはや「どこがハンバーガーやねん!」
と唸らせるほど、セレブ御用達のアートなファーストフードである。
さすが阪急沿線である。
しかし金森首領さまは表情を強張らせ、「・・・hiro、言うとくけどな、
この町のモスを普通のモスやと思ったらアカンで。」と呟いた。
「普通のモスやないって、どないなことですねん?どう違いまんねん?」と訝しがる私に
「それがや・・モス・・モス・・モ~スモ~ス ベンチでささやくお~二人さん~・・ちゅてね
・・・とにかく覚悟だけはしといてくれ・・・」と顔を曇らせる首領さまであった。
新居は新しい最寄り駅まで徒歩五分という交通至便な物件である。
モスまでも歩いていける距離だというが、疲れていたので敢えて車で行くことにした。
駅前通りを通り過ぎるが、なんだか旧居があった町と雰囲気が違うような気がする。
駅前商店街を行きかう人々の佇まいが・・自転車で疾走する豹柄スパッツのオバハンが・・・
なんだか、これまでイメージしていた阪急沿線の空気ではないような気がする。
まずもって、「豹柄スパッツ」と「北摂」が同居するなどとは・・・
ひと駅だけでこれほど文化の違いが出るはずはない。気のせいだろう。
モスバーガーの外観には特に変わった様子はない。
店内に入る。なにか違和感を感じる。
空気がとりあえず「昨今」ではない。
「昨今」とどこかが違う。「昨今」となにかが違う。
・・・気づいた。そう、ここでは客席のほぼ80%が喫煙席なのである。
しかも禁煙席は奥の片隅でひっそりと肩身狭そうに隔離されている。
昨今の嫌煙風潮とはまったく逆の状況が繰り広げられているのであった。
紫煙を燻らしつつ、鶏つくねバーガーを頬ばるオバハン達の豹柄ヒカリモノ率異常に高し。
カウンターでオーダーを聞いてくれたスタッフも見事にオバハンであった。
さすがに豹柄ではなくメイド風制服を着用されていらっしゃるが、声がガラガラである。
明らかに酒灼けである。カラオケ灼けも併発されている気もする。
はっきりと京阪沿線香里園駅前雑居ビルスナックママ直系である。
決してセレブ空間阪急沿線に居住してはいけない人種である。
香里園と香枦園は似て非なるものである。まったくもって非なるものである。
かたや京阪沿線屈指の庶民派シティー。かたや阪神沿線ではあるが、阪神間指折りの
高級住宅地である。似て非なるにもホドがあるのである。
イチローとキダタローほど似て非なるのである。
ジョン・ボーナムとキム・ジョンナムほど似て非なるのである。
言葉をなくす私に、金森首領さまはこれから自身のホームタウンとなる町並みを
窓越しに見やりながら重い口を開かれた。
「ひと駅違いで大違いっちゅうこっちゃ・・・」
お断りしておきますが、私は決して京阪電車及びおけいはんに悪意を持つ者ではございません。
どちらかというと阪急よりもシンパシーを感じたりもしている近鉄沿線在住者でございます。