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エピソード127 ギターの名前

エリック・クラプトンとスティーヴ・ウィンウッドが来日公演を行った。
鳴り物入りで二人が結成したブラインド・フェイスは半年という短命だったが、
天才同士、盟友としての信頼関係は40年を経た今も健在のようである。

ブラインド・フェイスが残したのはたった一枚のアルバムだけであるが、
当時高校生になるかならないかの浪速っ子純情派だった私としては、
「こ、これはまた・・・」と頬を赤らめるほどのロリコン・ジャケットに
股間は文字通り「スーパー・ジャイアンツ」と化したものの、
親の眼も気になってか、あまり本腰を入れて聴いていなかったような気もする。

今回の来日公演の画像を見ると、二人ともやはりエレキギターは
FENDER社のストラトキャスターを使用しているようである。
最早 世界的にストラトキャスターはエリック・クラプトンの代名詞であるが、
デビュー当時、クラプトンはGIBSON社のギターを好んで使用していた。
ストラトキャスターをメインにするようになったのはウィンウッドの影響だったようである。

エリック・クラプトンのかつての愛器「ブラウニー」はオークションで
なんと45万ドルという価格で落札され、後を継いだ「ブラッキー」にいたっては
95万9500ドル!という、ギターとしての世界最高額に輝いた。
しかし、たかだかギターの分際でWikipediaにまで載るとは、
さすが「ギターの神様」というべきか・・・
でも当時の日本で「ギターの神様」は古賀政男で、
「エレキの神様」は寺内タケシではなかったろうか。
しかし残念ながら彼らの愛器の名前はWikipediaには見つけられなかったし、
「古賀ギターが10万ドルで落札!」というニュースも聞かない。
けれど門下生のアントニオ・古賀氏の「その名はフジヤマ」は名曲である。

愛用するギターに愛称を与えるギタリストはけっこう存在する。
B.B.KingのGIBSON ES355改「ルシール」は超有名である。
若い頃、火事がおきた酒場に置き忘れた愛用のギターを、燃え盛る中救い出した。
火事の原因が男達の「ルシール」という女性を巡っての諍い事だったことを知り
その後愛器に「ルシール」という名をつけることにしたらしい。
まあ、どこまで真実か分からないが、ミュージシャンに伝説は必要である。

ウィリー・ネルソンの愛器"Trigger"も有名だ。
Martin社のN-20っていう、いわゆるガット・ギターである。
これはもうスサマジイギターである。
長年に亘ってのハードなピッキングのお陰で、
なんとトップ板にポッカリと穴が開いているのである。
「おじいさんなのに三つ編みお下げ髪」というアイコンと共に
「引き金」と名付けられた穴ポコギターもまた伝説と呼ばれるものかも知れない。

クイーンのギタリスト、ブライアン・メイの"Red Special"などは
「100年以上前の暖炉の廃材から父親と共に自作した」というふれ込みである。
こうなってくると最早、伝説作りが先立っているような気もする。

さて我らが金森幸介の愛器である。
皆さんご存知の通り、もう四半世紀以上彼と苦楽(主に苦)を共にしてきたMartin社のD-18である。
去年だったか、ブラブラとギターケースをブラ下げ、人ごみの中を歩いて帰宅すると
なんとギターのサイド板が割れていたという悲劇にも遭遇したが、
上人御用達の名工カナヤンの手によって甦った。
・・・なんていうのは伝説にもならない単なる「事故」である。

年金支給もきっとままならないであろう金森幸介には、今「伝説」が必要なのである。
実際に必要なのは「金」に尽きるのだけれど「伝説」が「金」を連れてくるのは
業界では通説であるらしいのだ。
伝説を得る為に放火したり、わざとギターに穴を開けるなんていうのはやっぱり大人気ない。
ここはひとつ、ギターに愛称をつけるというのはどうだろう。
いや、上人は人知れず密かにつけているかも知れない。
なんといっても愛用のパソコンを「ジェーン」だとか「キャサリン」だとか
「昭和の台風かっ!」ちゅう愛称で呼んでいたアンケラソである。
しかしベッドでのピロウトークを微塵も漏らさない男、素直に白状するとは思えない。

ここはやはり、Kosuke.com読者の方々にお力添え頂こうではないか。
金森幸介の愛器の愛称を公募しようではないか。
もっと広げて「金」になりそうな「伝説」をデッチあげて・・・
いや、伝説を構築していただこうではないか。
ボロい儲け話・・・いや、妙案が浮かんだ方はBBSにてお知らせ下さい。

伝説ではないけれど、金森幸介がその昔エレキ・ギターを弾いていたのをご存知だろうか。
"Broken Window"というバンドで演奏していた頃である。
メンバーは、コールド・ラビッシュという当時関西でブイブイいわせていたバンドの面々が
主であった。
私はずっと"Broken Wind"だと勘違いしており「けっこう叙情的ね」と思っていたのだが
「ガラス窓を壊す爆音」の意だと聞いて後年納得したものである。
金森幸介はGIBSON社のレスポールモデルにBIGSBY社のトレモロアームを装着して弾いていた。
これはニール・ヤング好みのスタイルである。
ニールは同じ仕様のレスポールを私が知る限り三本所有している。
因みに一番使用頻度が高いと思われる黒いのはジム・メッシーナから
交換で譲り受けたものらしい。


 

 

 

 

 

 

 



ニールはトレモロ好きである。私が知る限り、世界で三本の指に入るトレモロ好きである。
ジェフ・ベック、ニール・ヤング、そして金森幸介である。
若き金森幸介はBroken Windowのステージで、窓をも揺るがす爆音を奏でるメンバーを従え
トレモロアームを荒々しく震わし、シャウトした。

月日は流れ、金森幸介は人々から上人と呼ばれるまで老成した。
ステージでイスに頼らぬ日はない。
BIGSBYどころか、ピックさえも必要ない。
爆音とは180度離れた地平に今彼はいて、我々聴衆もそこにいる。
でもBroken Windowのあの熱さと力強さと、なんら変わったものはあるだろうか。
彼のD-18からは今もあのトレモロアームの不安を煽る揺らぎを感じるし、
静かなフィンガーピッキングの調べによって破壊されるべき悪しき窓を私は想起させられる。


中学三年生になった私の次男が一年ほど前から音楽に目覚めた。
というか、少々目覚め過ぎた。目覚めるにもホドがある。
ギターにも目覚めた。こちらもホドを知らないと見える。
金森上人からThe BeatlesやThe Whoの音源を焼いてもらって彼のipodは
とてもチューボーとは思えないおっさん臭さである。
受験生の父親としてはハラハラものだが、目立って成績が落ちてもいないので
今のところはまあ静観している。というか、まあうれしくもある。
現在神戸で下宿している大学三年生の長男もGIBSON社のレスポールを奨学金で
買ったらしいし・・・(コラコラ!)
父親としてはやっぱり音楽の楽しさを知ってもらいたかったのだろう。

次男が自分のエレキギターにBIGSBYのトレモロアームを装着したいと言い出したのは
もはや必然といってもいいのかも知れない。
だって次男は金森幸介と人生の来し方が非常に似ているのである。
たかだか15年の人生を十二支を五回も巡った人生と比べるのは無謀かも知れないけれど
やっぱりそう感じる。
個人が携えた価値観というものは「三つ子の魂百まで」なのかも知れない。

私は楽器好きだがBIGSBYのことなどなにも知らないので、金森幸介に相談すると、
「昔俺が使てた奴があるから使たらエエがな」とおっしゃる。
「そ、それはなんでも悪いから、お金払うわ」と返したが、固辞されるのである。
太っ腹である。以前使用していたというSHADOW社のアコースティックギター用の
ピックアップまで一緒に頂戴した。気前が良いにもホドがあるのである。
しかし相変わらずタバコの火を借りるときには「5円なっ!」とすかさず請求するのだから
上人のこの経済観念のギャップはどうなっているのだろう。
このギャップをして「伝説」にするのはどうかしら?

上人から頂戴したBIGSBYのアームをギターに装着してやったら、次男は狂喜乱舞して喜んだ。
その後彼は愛器に「コースケ」と名付けたのだけれど、伝説?

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