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エピソード13 孤独のメッセージ

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魔都日本橋の路上で出会ったキャミソールおじさんにブッとんだ我々だったが、
決して嫌悪感を抱いたわけではない。後に我々の会話で判明したのだが、
お互いにけっこう好感を持って眺めていたのだ。
確かに異様なルックスは道行く人たちに好奇の目を誘っていた。
でもそのあまりに軽やかなステップと開放感に満ちた表情は他の誰よりも清々しいものであった。
”自由”を感じたのだ。そうフリーダム!
ヒラヒラワンピースのヒゲ面おやじ。ギターを持たせてワンコードストロークで歌わせりゃ、
リッチー・ヘヴンスに見えなくもない...ってそりゃ無理やりか フリ~~ダムゥ~~っ!

とまあ散々なCD探しの旅をお伝えしたが、その後何軒かのショップを廻り、
私は7枚、金森幸介に至っては9枚の音源をゲットした。
しかも二人ともン千円の出費しかしなかったことも付け加えておこう。

さてこの話には後日談がある。それはとても切ないお話である。
傍らにハンカチを用意してお読みあれ。
お持ちの方はここから ロイ・オービソンの”CRYING”を聴きながら をお勧めします。

自宅に帰り、購入したばかりのCDを早速聴いてみることにした私。
しかしまあなんでこのCDのビニールってやつは剥ぎにくいの?最後にゃいつも噛み切りだもん。
その中の一枚、中古輸入盤だが、それに英語の歌詞カードが付いていた。
歌詞カードを取り出し、広げると同時にポロっとなにかが床に落ちた。
それは小さな水色の紙切れだった。
二つ折りにされたその紙切れには手書きの文字が細かく記されていた。
「Dear○○○(女性のファーストネーム)
大好きな君に僕が大好きなこのCDを贈ります。
<中略>僕がいちばんに好きなのはこの曲です。特にサビの高音部分に胸キュンです。
僕が君を思う気持ちを代弁してくれているような気がします。
<中略>そこでお願いがあるのです。今度の土曜日の夜10時きっかりにこのCDをヘッドホンで
聞き初めて下さい。僕も同時に聞き始めます。(NHKの時報を推奨)
同じ瞬間に同じ音楽を共有したいのです。   ○○より愛をこめて

私は言葉を失った。
賢明なみなさんにはもうお気づきのことだろう。このCDの由来について。
そう、過去に、ある男性が思いを寄せる女性に告白を託して贈った物なのだ。
しかしなぜか今、それは私の手にある。
彼にはそれを渡す勇気が無く、手紙を抜き忘れて中古CD店に売ったのか
それとも受け取った彼女が困惑しつつ売りさばいたのか、定かではない。
でもこれだけは言えるだろう。彼のこのメッセージは彼女の胸に届くことはなかっただろうと。
そして時を経て波間を漂うガラス瓶の手紙のように私の岸辺に届いたのだ。
確かに昔から書籍などに自分のウンチクを添えて女性に贈るセンスはトホホとされてきた。
でもやっちまうんだよなあ。かく言う私も高校時代には高村詩集なんかでやってもうたクチである。
若気の至りを予防する手立てはない。若さ自体が元々熱病のようなものなのだから。
嗚呼..恋は悲し野辺の花よ。
実らぬ恋は儚くも切ない。しかし実った時点で恋愛はある意味その役目を終えるのだ。
恋愛映画だって悲恋が成就したところでエンディングを迎える。
そこから先はハートウォーミングなホームドラマに任せればいい。

それにしてもこの手紙の主は悲し過ぎる。恋をしながらに恋を知らない。
精神的なコスプレやテレフォンプレイを強要しているようなものだ。
”胸キュン”って..”代弁”って..
なんぼ愛を込められても時報まで推奨された日にゃあ..パソコンの取説やないねんから

この話を聞いた金森幸介の感想は
幸「女の子に贈るのになんでよりにもよってロイ・オービソンやねん。そこから間違うとるがな。」
私「そうやわな。あんな仲本工事みたいなおっさん」
幸「それは言い過ぎ!」

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