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エピソード134 能勢の郷から2012秋 遺言

いきなり「北の国から」みたいなタイトルでありますが、
別に意味はありません。
最近少し、行き詰まり気味の生活を送っていた私は
「ここではないどこか」に逃避する必要に駆られていたのです。

秋も深まりつつあるとある水曜日の午後、私は金森幸介に電話をかけた。
彼は一昨日くらいに九州ツアーから帰阪しているはずで、
久しぶりに晴れ上がった今日は、多分たまりにたまった洗濯を敢行し、
ベランダにふとんを干して、パ~ンパ~ンしていると踏んだのである。
コール音数回の後、「もしも~し!」といつもの能天気声が聞こえてきた。
私の読みは当たった。しかし行動を読み易い男である。

しばし近況報告などを交わしたが、数分後向こうの電話機から
ピーピーという音が聞こえる。
「あへっ!あかんわ。電話の電池切れるわ!」
まだバッテリー交換しとらんかったんかい!

仕方なく、早々に今日の本題を切り出す。
「ヒマやったら、今から氣遊行かへん?」
「ええな~。ええけど氣遊、最近平日休んでるんちゃうかなあ?」
「そうか~。分かったわ。いっぺん俺電話してみるわ。
結果、また電話するから、充電しといてや~」
と電話を切り、能勢の峠道に建つcafe氣遊に電話をかけてみた。
長くコール音が続いたあと、「FAXを送られる方は・・・」
というアナウンスに変わった。やっぱ休みか・・・

その旨を金森幸介に折り返し電話すると
彼は氣遊のオーナー、イノウエのタカっちゃんの携帯に電話をかけ、
今日、営業しているとの情報を得ていた。
「OK!そしたら行こうや!」
「よっしゃ!ほな、待って・・・ピーピー・・プープープー・・・」
もはや電話機のバッテリーは虫の息のようである。

阪神高速の豊中南で一旦降り、金森幸介をピックアップして
再び高速に乗り、一路能勢へ。

再び高速を降り山道を行く。高度が増すほどに山の広葉樹は色を黄、朱色に色を変えていく。
到着し車を降りると、さすがに気温の低さが身にしみる。
イノウエのタカっちゃんはお元気なようである。
野菜たっぷりのスープと香ばしいバケットを頂いてホッコリする我々。
やはり、ここはいつも我々を癒してくれる。

店内には数組のお客さんがいて、皆リラックスしている。
窓辺には干し柿がモビールのように吊るされ、し~ずか~な~静かな里の秋を感じさせる。

最近広げられたテラスに出てタバコを吸う我々。
話題は、お葬式の話である。
最近、お葬式には色々な形式があるようだが、「音楽葬」なるものもあるようである。
生前音楽が好きだった故人を音楽で送ろうという趣向で、
会場に音楽を流したり、仲間が演奏したりするらしい。
本人がそう望んでいたのならまだしも、果たして送られる側としては
うれしいものなのだろうか。

我々も音楽は相当好きな方だと思うけれど、人生のすべてが音楽に満ちていたかといえば
そうでもない。
私はスパゲッティーが好きで、再々食するわけだが、よく好みのスパイスを振りかけて
食べたりもする。この場合のスパイスが人生における音楽だとすると、
ことさらスパイスを持ち上げた葬式をされるのもなんだかなあであろう。

我々が送られる立場として、お葬式にはお坊さんのお経で充分である。
もう音楽も充分聴いた。
よく「志半ばで・・」というが、ほとんど誰でも死ぬときは「志半ば」である。
カップ麺が出来上がる数分間に亡くなった人にとっては
「カップ麺食べたい」という志の半ばである。無念である。
「遺志を継いで・・・」ともよく言われるが、我々は別にそんなこともどうでもいい。
息子たちに継いで欲しいものもなにもない。
たとえCDアルバム製作中に死んでも、完成させて発表・・なんてこともして欲しくない。
でも出来上がったカップ麺は継いで食べて欲しい。もったいないからね。

では我々としてはどのようなお葬式をしてもらいたいかという話になった。
やはりこの人生において重要なファクターとなったものに囲まれて死にたい気もする。
そこで私と金森先生が辿り着いた結論は
「ERO葬」であった。
なんだかとってもエロそうである。
参列される女性は出来れば和装の喪服でお願いしたい。
髪はアップして、ウナジには軽くおくれ毛を垂らして頂きたい。
いつでも「あ~れ~っ!」と回転できるように帯は少し緩めに締めておいて頂きたい。
やむなく洋装で来られる場合には、映画「お葬式」の高瀬春奈さんのような
吊り上りメガネを着用して頂きたい。喪服はあくまでタイトに、
スカートはちょいミニでお願いしたい。
オプションとして、黒の網タイツなどは大歓迎である。
・・・と言いつつも、医師から「ご臨終です」と告げられたら
即刻我々のPCのデータ、特に画像データは中身を確認せずに完全消去して頂きたい。
武士の情である。


写真は氣遊の窓辺の干し柿のモビールと、広げられたテラスに立つ金森先生。
深刻な表情だが、アタマの中はエロでいっぱいのエロ先生である。

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