エピソード15 失うものなどなにもない 前編

漫才の横山たかし・ひろしの「お坊ちゃまネタ」をご存知だろうか。
というか、彼らの場合ほとんど毎回このネタなのだが。
たかしの「わしゃ、大金持ちの息子じゃ」との自慢から話は始まる。
皆からお坊ちゃまと呼ばれ、高松宮も知り合いだと豪語。上着も金無垢だという。(動けるか~!)
しかし、執拗なひろしのツッコミにより、次々と馬脚を表すたかし。
すべてがまったくのホラ話であることを露呈してしまう。
でも完璧な作り話という訳ではなく、知り合いだという”高松宮”も”高松の飲み屋”だったりして
なんだか憎めないのである。
その後、ひろしに完膚なきまでに追い詰められたたかしは
「すまんの~、ゼニ持っとったらホラ吹くか~!」と赤いハンカチを咥えてオチるのである。
しかしまあ何十年も同じネタ一本で通す力技に驚かされるが、何度見ても笑ってしまうから不思議だ。

金森幸介は僕にとっての横山たかしであった。
裕福な家庭に生まれ、使用人たちから「ボン!」と呼ばれ、蝶よ花よの少年時代を送ったというのだ。
現在の金森幸介を知る者はこんな話を聞かされて間違いなく眉毛にツバを塗りまくるはずである。
大阪市内の広大な敷地を持つお屋敷に生を受け、
「隣接する小学校の体育館建築用地に庭の一部をポ~ンっと寄付したんやがな」なんて言いながら
銭湯へいくのに彼からタオルを借りると”レンタル料50円”を請求するのである。

秋の夜長に我々はいつもと違った銭湯に出かけていた。南大阪に新しく出来たスーパー銭湯。
毎日放送TV”ちちんぷいぷい”で紹介されたのは我々が行った後であるからして
我々のトレンドを嗅ぎ分ける能力には西川りゅうじんも脱帽である。
その銭湯の想像以上の居心地の良さに我々の指はフヤけて老人のように皺だらけになってしまった。
湯あたり寸前のヘロヘロ状態で車に乗り込むや、そのまま阪神高速湾岸線にアクセスした。
深夜の湾岸線をユッタリとしたスピードで北へ向かう。右手は大阪市内の眩い高層ビル街、
かわって左手は神戸まで弓なりに続く阪神工業地帯のコンビナートである。
映画ブラックレインのロケ地として使われたのは有名だが、夜空に噴出し続ける煙や蒸気は
いかにもリドリー・スコット監督好みの風景である。
果てなく続く立体交差のハイウェイ、幾何学模様の工場群、摩天楼、海に浮ぶ空港...
我々が子どもの頃に思い描いた未来がまさにここにある。
先の大戦から50余年、しかし日本はよく頑張ったものだ。
なんだかんだあるけど、おやじやお袋の世代は本当によく頑張ったと思う。
誰かなんか文句あるか?と言いたい。

以前のinside-reportでもお伝えしたが、この風景を前にした我々の涙腺はめっぽう弱い。
途切れたカーステレオに気にもとめず、我々は無言でただ走り続けた。
「俺が生まれたのは、ここらやなあ..」と金森幸介が呟くまで...
そのひと言に僕は誘われるようにユニバーサル・シティー出口へハンドルをきった。
これまた以前にtambourine man氏が書いていたように、右手は工場と倉庫以外なんにもない。
草生した引込み線の線路が運河に沿って伸びている。
「ここらで昔、野犬に追いかけられたもんやがな」と幸介。
しかしうって変わってその背後にはユニバーサル・スタジオ・ジャパンの高い塀や
カラフルなホテルが立ち並び、サーチライトが夜空を照らしているのだ。
かつて金森少年が野犬に追われた場所で、今は子どもたちがスヌーピーを追いかけているのだ。
なにげなく曲がった交差点で金森幸介が声を上げた。
「ここ!ここ!見覚えあるぞ!」
信号機の点滅に照らされて古びた神社があった。
色褪せた鳥居、苔むした石灯籠を眺めながら
「間違いない。懐かしいなあ。昔好きやった女の子をここで待ったりしたなあ..」
なんでもここいらに来るのは18のときに生家を出て以来だそうだ。

その神社を座標軸にして、その昔金森家があった場所を探した。
そして遂に我々は見つけた。 後編へ続く。