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エピソード21 darkend of the street part2

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神戸三宮の意外なるデカダンスぶりに我々はそそくさと車上の人となった。
しっかしまあ、譲二ショック~!であった。
ビル自体、団塊の世代の修学旅行宿のように継ぎ足しツギハギで、
自分が今何階にいるかすら分からない。まるで迷宮である。
冥王サウロンの邪悪な支配によってあのビルは永遠に荒廃の一途を辿るのだろうか。
んな訳きゃないのである。

我々はダークフォースの魔の手から逃れるように阪神高速を東へと急いだ。
あまりの恐怖に気もソゾロ、後はオボロ、大阪市内を通り越して西名阪道に迷い込んでいた。
気が付いた時はもはや奈良の郡山インターであった。
慌てて高速道路を降りると、我々の乗る車はなにかに曳かれるように一般道を北行した。
しばらくすると見覚えのあるネオンが見えてきた。

ガガガガ~ン!ぬぁ~んと、そこは、旧inside-reportでご紹介したことがある古本屋だった。
目に見えぬ悪意によって我々はここへ引き寄せられた...そんなザワついた思いが脳裏をよぎる。
しかし”怖いもの見たさ”とはよく言ったもので、我々の車は駐車場に吸い込まれた。
陽はすでに沈み、重苦しい暗闇が辺りを支配している。
以前ここを訪れてから3年はたっぷりと経過しているだろう。
時間が止まったあの異空間は今もこの暗黒物件に内包されているのだろうか。

幹線道路と幹線道路が交わる交差点にこの建物は存在する。しかし建物側の一方の国道は
ここから極細い道になる。まるでこの建物がその貫通を邪魔しているかのように見える。
撤去しようとすると不吉なことが起こり、道の真ん中に不自然に残された老木のようである。
まさしくここは darkend of the streetなのだ。

2階の中華料理店には煌々と照明が灯っている。なんせ年中無休、終夜営業なのだ。
ショボイ店ではない。かなりの規模である。”中華大飯店”と呼ぶに相応しい佇まい。
客はいるのだろうか?いや、そんな興味は持たない方が身の為だ。我々は川口浩探検隊ではないのだ。
宮沢賢治の「注文の多いレストラン」を思い出す私と金森幸介。
四方の夜空に店名を示す真っ赤なネオンサインは所々ネオン管が切れている。
しかし”YES!WE ARE OPEN!”と誘蛾灯の如くのその姿は
分厚いルージュと下卑たパーフィームで我々を手招きする妖しいドラァグクィーンのようだ。
建物の一階に足を踏み入れた途端、声を失くし不安感に襲われる。この感覚は以前と変わらない。
一階の入り口にある寿司屋はもう何年も閉ざされたままである。
しかしその閉ざし方が異常だ。入り口の戸板を無数のクギで打ち付けて封印してあるのだ。
幹線国道の交差点に面した一階の一等地である。そんな店舗が何年も空家なのである。
「借りて、なんかショーバイやろかな?」と私が呟くと、
「借りるんかい!」と金森幸介。
ギャグやっちゅ~の!なんか喋ってないと良くない想像ばかりしてしまうのだ。

閉ざされた寿司屋の奥には中古CD屋が営業中だ。張り紙がすべて「○○○グループ」
になっている所を見ると、この巨大なビル全体が同じ経営母体を持つのだろう。
せっかくだから中古CD屋に入ろうとして自動ドアの正面に立つが、ウンともスンとも動かない。
なにか呪文が必要なのだろうか。とりあえず「開け~ゴマ!」と小さく唱えてみるが変化なし。
じっくりと観察してみると自動ドアのサッシに真鍮の取っ手が後付けされてある。
そして控えめに「必ずお締めください」と記されている。
そう、自動ドアは故障していて、客が手動でドアを開閉するシステムなのだ。
取っ手が付けられた片側をスライドさせると、もう片方も開いていく。しかし相当重い。
この時点で我々はもうすっかり脱力。しかも開けたら閉めなくてはならない。
入店した段階で我々中年は息切れしてしまった。
電動回転ドアの事故が報道される昨今、一番安全なシステムとも言えるかも知れない。
しかしドアなんてどれもこれも危険なことに変わりはない。”完全に安全”なシステムなんてどこにもない。
大人も子どもも日頃から五感で危険を察知する感性を養わなくてはいけないだろう。

入店してまず、鼻をつくキョーレツなお香の匂いに圧倒される。
明らかに潜在的な何かの匂いを誤魔化しているように感じる。
話は飛躍するけど、よく焼肉屋さんで精算後「お口なおしに」とガムをくれたりするけど
あれってどう?喰った本人は「う~んミント爽やか~!」でいいかも知れないけど、
第三者的には、服や髪に染み付いた焼肉臭と甘ったるい香料&お口クッチャクッチャが一体化して
いかにも「焼肉喰いよったな」を感じさせてちょっとビンボ臭い気もしたりなんかして。

それはさておき、我々の危険察知センサー、いきなりの”レベル8”である。
とりあえず恐る恐る店内を物色するが、価格設定が高めである。
しかも邦楽には「和もの」洋楽には「洋もの」と江戸勘亭流フォントのポップが踊っている。トホホのホ。
気になったのが、フランク・ザッパの品揃えの豊富さである。ハエハエカカカ・ザッパッパ~
どこまで本気なの?このお店。

目ぼしいCDも見つけられず我々は店を出た。またもや重いドアを自力で開閉。
もぉ、開けっ放しにしとけよ~!
さあ、いよいよこの九龍城の如く妖気漂う建築物の中枢である地下古本屋へ突入だ。
以前侵入したときの驚きを我々は今もって忘れてはいない。
というか月日を経てその恐怖の記憶は、更に刺々しく我々の心に突き刺さっている。
もしかしたら記憶だけが一人歩きして、実はそれほどには世離れしたものではないのかも知れない。
なんと言っても、この不景気の中、あれからも3年以上営業を続けているのだ。
固定客がいるに違いない。この店なりの企業努力で繁盛店に盛り上がったに違いない。
やるじゃないか!○○○グループ!
しかし、地下に一歩踏み入れた途端、我々の淡い期待は脆くも崩れさった。

怒涛のpart3完結篇を待て!

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