エピソード25 ドーナツショップのウェイトレス

時は初秋、所は大阪日本橋。今日も今日とて掘り出し物CDを探し求める我々である。
しばしの休憩のため、以前もこのコーナーでご紹介したドーナツ・ショップに入った。
カウンターでオーダーを訊かれるのはファーストフードのチェーン店ではおなじみの光景だ。
大抵のチェーン店の店員は、これでもか!というくらいのスマイルで接客する。
愛想笑いにもホドがある作り笑顔が一般的だ。そしてマニュアルに忠実な接客マナーである。
まるでロボットか蝋人形のように魂の抜け殻のような笑顔だ。
余談になるが、超カルトなロック・ミュージシャン揃えで有名な東京タワーの蝋人形館の館長が
日本マクドナルドの藤田田氏のご子息だったのには驚いた。
スマイル0円と蝋人形、なんとなく共通点がなくもない。

フランチャイズやチェーン店のマニュアル接客は丁寧だが、慇懃無礼(インギンブレイってこう書くらしい。
インキンプレイではない。どんなプレイやねんっちゅうの!)に感じることが多い。
この日我々をコテンパンにノックアウトしたウェイトレスはまさにその逆であった。
淡い茶髪のポニーテールを揺らして我々の眼前に立ったハタチ前後の女性。
この彼女がそんじょそこらのウェイトレスではなかった。とにかく無駄な愛想は一切排除されている。
かと言って無愛想って訳じゃない。いや我々にとってはこれこそが愛想よし子さんなのだ。

我々がショーウィンドー越しにドーナツを選んでいる間、右手のトングはクルクルと宙を舞い
左手は腰に添えられている。右足は軽く折り曲げられ、踵は床を小さくトントンしている。
よく見れば、彼女の佇まいのすべてが店内に流れるカントリー・ミュージックにあわせたグルーヴである。
さすがにガムをクチャクチャはないけど、イメージ的にはそんな感じ。
表向きの緊張感は皆無と言っていい。リラックスの極致である。ある意味究極の癒し系である。
いや、私の拙い筆力では彼女の自然体な佇まいをとても表現などできない。
しかしその仕事振りのすべては的確だ。
選んだドーナツを彼女に告げると、小気味良く手首を返しながらポイッポイッと皿に載せていく。
このスナップの利かせ方がまた見とれるほどにパーフェクト・リバティーである。
しかしアバウトでは決してない。このバランスが非常に難しいけど、彼女は苦もなくやってのけるのだ。
これまたうまくお伝えできない。ああもどかしい。
とにかく動きのひとつひとつが理に適っている。合理的ではあるが果てしなく人間的である。
バカ丁寧なマニュアル接客に慣れた人間の目にはお下品に映るかも知れないけど。

そもそもドーナツを食うなんてそんなにお上品な行為じゃない。
しかもここは地の果てアルジェリア...いや魔都日本橋なのだ。
客層だって推して知るべしである。ビッグ・リボウスキのボウリング仲間みたいな奴らに決まってる。
そんなS・ブシェミ系の奴らを敵に回して、ハタチそこそこの娘が堂々と立ち向かっているのだ。
彼女の制服のシャツは第2ボタンまで開かれ、ハスッパさを見事に演出している。
堅物のチェーン本部の人間が見たら卒倒ものだろうが、我々は一瞬で彼女の魅力の虜になった。
まちがいなく日本一のドーナツショップのウェイトレスである。

テーブルに着いて、コーヒーを飲みながらカウンターの彼女を眺める我々。
ポニーテールをこちらに向けて(当然フロアーに背を向けて)他のバイト女性と世間話に興じている。
しかし、店内のカウンターからボックスまで彼女が発するオーラに溢れている。
この空間を支配しているのは紛れもなく彼女である。
アメリカ田舎町のドーナツ・ショップの匂いを感じる。
行ったことないけど...
この店を一歩出るとそこにはタンブルウィードが転がり長距離バスが我々を待っているような気がする。
乗ったことないけど...
ロード・ムービーの主人公たちを気取りたくなる我々だったりして。
テンガロンならぬボルサリーノを被った金森幸介がジョン・ボイドなら私はさしずめダスティン・ホフマン?
我々の妄想は続く。
幸 「お前がダスティン・ホフマン役やったら俺は”レインマン”のトム・クルーズやな」
私 「えらいカッコええ役とるやんか。君が”ツインズ”のシュワちゃんやったら俺はダニー・デビートか?」
幸 「そうそう、”大災難”やったら、俺がスティーブ・マーティンでお前はジョン・キャンディー。」
私 「そやから、もうちょっとエエ役にしてくれっちゅうの!」
 
とにかく幸せな気分で我々は店を出た。これまたお尻を向けて我々を送り出す彼女。もぉ~文句なし!
これはもう恋と言っても過言ではない。
金森幸介と私は日本橋のドーナツ・ショップのウェイトレスにふぉーりん・らぶなのである。
ネチっこい関係がとにかく苦手だ。恋愛も友情も単純明解がいちばんである。
ジェンダー論やらフェミニズムにも興味なし。そんなことを口に出すだけでヤヤコシイ。
圧倒的な存在感とその自由奔放さで我々をメロメロにしたドーナツ・ショップのウェイトレス。
私が首相だったら彼女を法務大臣に任命するだろう。
もし私が死刑囚で、彼女に「はい死刑ね」って執行されたら、これはもう思い残すことはないと思う。
なんちゅうオチやねん!