エピソード28 life goes on その1

夏がく~ると思い出す~...

雨の季節が去って本格的な夏がやってくると、毎年決まってこの胸は騒ぐのであります。
それは遠い少年時代、ひと夏だけ過ごした合宿所の草いきれのように
”夏”という言葉に集約されて今も僕の鼻や耳や心に染み付いているのです。

フリコンや ああフリコンや フリコンや

金森幸介とその仲間たちがその昔、服部緑地の野外音楽堂で主催していたフリコン!
名古屋のみんなが尾張旭市の森林公園で継続するフリコン!
僕はそんなフリーコンサートが好きだ。目を瞑ると背の高いプラタナスが風に揺れている。
バックステージにいようと、ステージにいようと、芝生の上にいようと、
フリコンに関わる人々は誰として何に媚びる必要はないし、見栄を張る必要もない。
言葉にして伝えたいようなメッセージさえない。
ああ...PEACE...
ただ僕はフリコンとそれに参加しようとする人たちが好きなのだ。
そしたらお前が主催しろよという声も聞こえるけど、それはそれ、これはこれであります。

服部緑地のフリコンは"OH! MY ENDLESS SUMMER"というタイトルが冠されていた。
尾張旭市の森林公園のそれは僕がざっと思い出したところで
”夢一番””LIFE GOES ON””夏の楽園””LOST PARADISE”などとその名を変えた。
たいていの場合、前日がリハーサルに充てられていたので、
我々大阪組はいわゆる”前のり”で、前日に現地入りをしていた。
ある夏の森林公園フリコンのお話。
僕はTHE MELLOWのメンバーと共に名神高速を名古屋方面に向かっていた。
金森幸介はすでに午前中に単身名古屋入りを果していた。
詳しくは思い出せないけれど、諸事情が重なってメンバーの出発は
前日の午後になってしまったのである。
車はペダル・スティールギター担当のNAYO君の赤いランドクルーザー。

山崎の狐狸妖怪のイタズラか、関が原の合戦で無念の死を遂げたサムライの怨念か、
いつまでたっても辿りつけない。
天王山トンネルを通る際にはいつも、「トンネル抜けて~トンネル抜けて~」と
ザ・ダイナマイツの”トンネル天国”を全員で絶唱するのがGS世代のバンドマンの作法である。
そんな悠長なことを言うてる場合ではないのである。
陽はとっくに沈んで、今更着いてもリハーサルなんて到底間に合わないのである。
なにしに行くんやっちゅう話である。

バンドをやろうなんていう奴らの辞書に「自己責任」の四文字はない。
「道順?誰ぞが知っとるやろ。」と便乗した誰もが思っていたのだ。
能天気に名神高速をトンチンカンな場所で降りてしまったようである。
携帯電話もカーナビも影も形もなかった時代、見知らぬ町の深夜のスーパーで道を訊ねた。
「森林公園?聞いたこともにゃーで。おえりゃ~せんのぉ。ハヤシもあるでよぉ。」
店主の答はそんな風に僕らの耳には聞こえた。少なくとも名古屋圏には突入したようだ。
途方にくれつつ、我々のランクルは野生の感だけを頼りに高速に戻った。
1キロばかり走行したところで、信じられない標識を目の当たりにする我々。 
「大阪方面」
「は、反対やった~!」時速100キロ超で飛ばすトラック群を横目に赤いランクルは
名神高速道路を約1キロメートル、シズシズとバックしたのでありました。ヒッエ~ッ!
バンドマンの場合、野生の感もやっぱり当てにならんのであります。
それでもS.A.で味噌カツ丼をきっちり食したりはしてるんだから、悲壮感皆無の面々である。

結局森林公園に到着した頃には日付も変わっていたと記憶している。
真夏の宵の公園は風もなく静まりかえっている。
野外ステージで機材の寝ずの番をしていたスタッフと金森幸介に挨拶して、
他のメンバーはビールを買いに出かけた。
僕はとにかく睡魔に襲われ、一人で宿舎として用意されていた公園内の合宿所に向かった。
宿舎内は想像を遥かに超えた広さで、いくつもの部屋に分かれている。
ポツンポツンと常夜灯が点在する廊下を手探りで進んだ。なんとも不気味。
とにかく入り口近くの部屋に入った。20台ほどのベッドが並んでいるようだ。
既にほとんどのベッドで寝息が聞こえている。
僕は息を殺して空いているベッドに潜り込んだ。一瞬で眠りに落ちた。

ざわめきで目が覚めた。
頭まで被った掛け布団越しに陽光を感じる。朝だった。
みんな起床しだしたようである。けれど、どうも周りの様子がおかしい。
なぜならば聞こえる会話が敬語なのである。フリコンの人間関係には不似合いである。
蒲団の隙間から目だけを出して様子をうかがった。
僕のベッドの周囲で見も知らぬ男性たちがスーツ姿で朝の用意をしているではありませんか。
.....ようやく事態を察知した私。全然無関係の団体の部屋で寝ていたのである。
おそらくはどこかの企業の夏季研修合宿。
「おい、起きろよ!」私を包むタオルケット越しに声がかかる。
私は手だけを出してOKサインをするのが精一杯でありました。

...お~もいだした。お~もいだした。お~もいだ~した~。
出発の日に出遅れたのは、私が寝過ごしたせいでした。
パジャマ代わりに着ていたスエットのまま慌てて飛び起きて、そのまま森林公園の宿舎で一泊。
フリコンのステージを終えて帰宅してそのまま就寝。
一泊二日をパジャマスエットで過ごしたんだっけ...遠い目をして語ることでもないけど。
とまあ、フリコンにはそんなボンクラなエピソードも多い。て言うか、私だけ?

続く。