エピソード29 life goes on その2

フリーコンサートの運営で、頼みの綱はなんといってもTシャツである。
フリコンのロゴやイラストをプリントしたTシャツを販売して必要経費に充てるのだ。
服部緑地や森林公園の場合、ほとんどは森英二郎さんの作品だった。

それにしても僕らは年がら年中日がな一日Tシャツを着る中年だ。
このコットン100%の衣類なしには僕らは到底生きられない...
そんなわきゃないけど、ないときっと寂しい。
僕らにとってTシャツはもはや単なる衣類の範疇を大きく超えている。
ジェダイのフォースのごとく、「Tシャツと共にあれ」が我々が仲間に送るエールだ。
金森幸介50ン歳も筋金入りのTシャツおじさんである。
Tシャツは彼の名刺代わりであり、アイデンティティーでメッセージボードだ。
日々彼が着用しているTシャツにはその一日の決意が込められている。
...とまあ、僕は感じているけど、実際にはな~んも考えてないのかも知れない。
古代エジプトの王様は黄金の仮面を冠して埋葬されたが、
金森幸介にお迎えがきた日には、DEAD系のロックTシャツで葬りたいものである。

梅雨とは名ばかりの六月のある日、金森幸介のもとに一通のメールが届いた。
発信元は米国ナッシュヴィル。発信者はカスタネットマン。
タンブリンマンにカスタネットマン...金森幸介の周りにはショボい楽器担当が勢ぞろいである。
しかし!しかしね、こういう単純な楽器ほど極めると奥が深いのでありますよ。
メールには一枚の写真が添付されていた。
そのスナップ写真こそが今回の主人公である。

私ことlefty-hiroは金森幸介の元に届いたその写真に大きな興味を抱いた。
そこで急遽ナッシュヴィルのカスタネットマンに連絡をとり、詳細な情報を入手した。
以下、カスタネットマンから届いたメール全文を紹介させていただくことにしよう。
今回はパシフィック・クロッシングな壮大なエピソードであります。
或いは「人のフンドシで相撲をとる」であります。
最近フンドシが静かなブームらしい。デパートでの売り上げが去年の十倍だとテレビで言ってた。
というか、デパートにフンドシ売り場があった事実が小説よりも奇なりね。
フレディー・マーキュリー系の売り子さんを想像しちゃったりして。
エルトンが買い占めちゃったりして。
...今回はそんな愉快なフンドシの話じゃなくて、Tシャツなのです。
カスタネットマン氏には私信を無断で公開してしもて申し訳なかとです。

ボナルー・ミュージック・フェスティヴァルの初日です。なんやそれ? といいますと、
毎年6月にナッシュヴィル(正確にテネシー州マンチェスター)で3日間、
開かれているロック・フェスで、最近はやりのジャム・バンド系が中心のキャスティングです。
といってもヴェテランも出てますよ。今年はピーター・ローワンとか、ジョン・プラインとか、
アール・スキャグスとか・・・
今年のボナルー・ミュージック・フェスティヴァルはわたしにとっては、
どうってことのないフェスティヴァルで、メインはなんといっても2日目の夜中に登場する
トレイ・アナスタシオの新バンド。それ以外は、何かおもろいモンでもないかな?
と探し歩いてたんです。
そしたら、タコ焼きみたいなちっちゃいおっちゃんがおって、
そのおっちゃんのTシャツには「Life Goes On」ってプリントされてて、
それがまた、どっかで観たことのある絵文字なんですわ。
Life Goes Onはビートルズの歌にも出てくるけど、大阪の電車男の歌にも出てくる。
そうそう、大阪の電車男とTシャツの絵は・・・・と、思ったときには遅かった。
タコ焼きみたいなおっさんは、「これ、名古屋でやってるフリコンのTシャツで・・・」
と説明されてしもた。
 
フ、フ、フリコンやて~!
いまどき「フリコン」いう人間は、F岡F太とK森K介、そしてその一味唐辛子ぐらいでしょう。
なにしろジャム・バンド系のフェスティヴァル。周囲はクラバーたちでいっぱいです。
ドレッド・ヘアやら、Tバックの紐だけ見せているような女の子たち、
そんななかで「フリコン」というタコ焼きみたいなちっちゃいおっちゃんがおったんですわ。
タコ焼きみたいなちっちゃいおっちゃんは、
コンサート会場にいるデカい外人の警備員に呼び止められたらしいでっせ。

警備員A  「おい、チビのハゲ。お前、何、持ってねん」
警備員B  「その錠剤、何やねん」
警備員C  「それ、売ろう思てんねんやろ?」
タコ焼き  「ち、ち、ちがうわい!これは大切なモンなんじゃ」
警備員A  「ええから、それこっちゃかせ!」
タコ焼き  「いやじゃ」
(タコ焼き:走り去ろうとするが、警備員BにフリコンTシャツのネックをつかまれている。
タコ焼きの体が宙に浮く)
警備員B  「かさんかい! いうのがわからんのかい、ボケ」
(その瞬間、錠剤が水溜りへ・・・)
タコ焼き  「胃腸薬やったのに・・・わぁ~ん」

タコ焼き 「カスタネットマンさん、これ知ってますか?」
(タコ焼き、フリコンのバンダナをリュクから出す)
カスタネットマン 「はい・・・少しだけ」
タコ焼き 「そしたら、これは?」
(今度はフリコンTシャツ:別ヴァージョン)
カスタネットマン 「なんとか・・・持っていませんけど・・・」
タコ焼き 「こんなんもあるんですよ」
(タコ焼きのフリコンTシャツ、コレクション・ショー)
カスタネットマン 「へぇ~、ぎょうさんあるんですね」
このおっさん、ナッシュヴィルでアーコさん(注 森英二郎氏)の絵、売り込みにきたんかい。
というか、なんぼほど着替え持ってきてんねん。

タコ焼き 「フリコンTシャツだけ、ちゃいますねん。醤油でしょ。味の素。調味料一式と米。
飯盒炊爨しょうと思って・・・ガスコンロも持ってきてるねんけど・・・
ずっと雨降ってたから・・・でけへんかった」
タコ焼き友人 「それでこの人、名古屋空港で全部、荷物をチェックされて・・・
飛行機乗る直前にも再チェックされてんで」

もちろん、帰国時にナッシュヴィルの空港でも入念なチェックをされたタコ焼きであったが、
外人に「味の素」ゆうても通じなかったみたい。英語で何ていうねんやろ?


それまで面識こそなかったが、お互い金森幸介と深い関係にあるカスタネットマンとタコ焼き...
いや名古屋フリコンメンバーのハタ坊氏が太平洋を隔てた米国南部マンチェスターで
Tシャツを介してファーストコンタクトを果したのである。
人は誰でも転がるlife stone 辿り着くまで泣いたらアカンよ。
Tシャツってジッサイ、とことん偉大である。