エピソード3 運も実力のうち?
私事で恐縮だが、私は昔から運がない。
何をやっても裏目裏目の結果しか出せない男である
最初に購入した自動車に付属していたオーディオが8トラック・テープという代物であった。
ビデオテープほどの大きさのテープを挿入して聞くのだが、
大部分が本体から飛び出ていて、邪魔なことこのうえない。
しかもレコード屋にはソフトが売られていない。ドライブ・インの土産物屋の片隅に
孫の手や木刀に隠れてヒッソリと売られているだけ。ジャンルは演歌と歌のない歌謡曲限定。
そればかりか録音機さえどこにもない。ようやく電気の街日本橋でアダプターを見つけた。
カセットテープに録音した音源をアダプターに取り付け、
それを本体に挿入してやっと再生!という聞くまでに疲れてしまう涙チョチョギレ状態だった。
初めて買ったビデオデッキはもちろんベータ方式だった。
レーザーディスク、エルカセット...私は時代に翻弄され続けた。
初めてのPCにMaCを選んだとき、周りでは「Appleももう終わりや」と噂された。
私が選択した方式はことごとく哀れな末路を辿ったからだ。
私はキャロル・キングの”Tapestry”の音源を4枚持っている。
1枚目のレコードを買ったその日、帰り道でお好み焼き屋に寄り、帰宅して盤を見ると
グニャグニャに曲がっていた。お好み焼きの鉄板の熱のせいだった。
気を取り直して2枚目を買った。これは愛聴しまくったせいでスクラッチ・ノイズが入りまくった。
当時出ていたCDを買った。しかしどうも音質が悪い。悪すぎる。
その夜、金森幸介に電話すると「知らんのかいな。今度デジタル・リマスター盤が出るで。」
ショックだった。早速リマスター盤を買った。抜群の音質だった。しかもボーナストラックまで付いて
あろうことか、最初に買った極悪CDより安かったのだ。
金森幸介も”運気”を非常に気にする。彼の最初のビデオもやはりベータだった。
この時期、金森幸介に電話をかけて、もし阪神タイガースが逆点でもした瞬間だったりしたら
「さすがHiro!ラッキーボーイやね!」と歓迎される。
しかし、もし逆の場合だったりした日にゃ、「お前は疫病神か!」とムネオばりの恫喝を受ける。
探していたCDを800円でゲットした日には「ウッヒョ~!俺って昇り運気やね!」と狂喜乱舞。
しかし翌日同じCDを500円で発見したりなんかしたら、「俺の運もこれまでや..」
やっぱり話がミミっちくなっちゃいましたね。
その昔、大学生だった金森幸介は自分も気がつかないうちにレコードデビューを飾った。
あれよあれよと言う間にソロデビュー、海外レコーディングと駒は進められた。
そういう意味では金森幸介に下積み時代はなかったと言えるだろう。
今思えば、彼の一生分の運は既にこの時点で使い果たされていたのかも知れない。
しかし、人の手によって一夜にして築かれた石垣。
その後彼は自らその石垣を降り、延々と一人で小石を積み上げ続けている。嗚呼一生下積み..
あまり幸運には縁がない金森幸介だが、「ただな、周りの人間には恵まれてると思う。」といつも言う。
その後に「唯一の汚点がなあ..hiro、お前や」と続くのだが。
キラ星の如くの彼の人脈の中で、今一番音楽上で光っているのが、仲野papa仁太氏だろう。
「箱舟は去って」のレコーディング以来、数十年お互い違う道を歩んでいたのだが、
アルバム”LOST SONGS”で再会。フリーコンサート”LOST PARADISE”
服部緑地でのコンサート、そして去年、名古屋の得三でのライブで共演している。
幸運なことに私はその殆どの現場に居合わせることが出来たのだが、
仁太氏の奏でるペダル・スティールギターはとにかくエモーショナルだ。
時に切なく、時に力強く、金森幸介の歌とギターに空気のように寄りそう佇まいである。
私も仁太氏とはプライベートでお付き合いさせて頂いているが、幸介氏とは対極的な立場である。
まったくと言っていいほど彼らは違う。社会との関わり方、私生活..ほとんどが異なっている。
しかし不思議なことに、両氏の視線は同じ座標を目指しているように私には感じる。
ものすご~く簡単に言ってしまうと、”人柄”なのだ。
うれしいことに今年もまた、得三での二人の共演が実現する。
しかもTambourine Manレーベル第一弾として昨年のライブ音源が発売されるというオマケ付き!。
薄運の私が言うのもなんですが、彼らの演奏に遭遇できたみなさんは、
めちゃくちゃ”幸運”であると断言しておきましょう。
CDには収録されていないでしょうが、二人のトークもこれまた魅力的です。
lefty-hiroレーベルからトーク部分のみ収録した8トラック・テープが近日発売されます。嘘です。