エピソード30 All Right Now

クイーンが日本にやってきました。
ポール・ロジャースも一緒にやってきました。
私は金森幸介から一番好きなロック・ボーカリストは 
ポール・ロジャースだと常々聞かされているのです。
かの円広志氏もその昔、ポール・ロジャースの信奉者だったようなので、
”サイレント印象派”と”とんでとんで派”の原点は同じだったことが分かります。

ご承知のとおりフリーやバッド・カンパニーに在籍したポールの歌いっぷりは
なんと言えばいいか、いわゆる”コブシが回ってる”のが特徴である。
これまた金森幸介の敬愛する田端義夫・バタヤンにも通じるところのある
哀切ボーカリストである。我々日本人好みといってもいいかも知れない。
そういえば以前の彼の奥さんもマチさんという日本人女性だった。

今でも我々はフリーがとにかく大好きだ。
サイモン・カークは一見地味だけど、フリー、バドカンサウンドには欠かせないドラマーだ。
アンディー・フレイザーの縦横無尽のベースプレイについて今更語るべきことなどないし、
ポール・コゾフを失ったのは音楽界の一大損失であるのは言うまでもない。
そしてポール・ロジャース...泣けるのである。

私がフリーを目の当たりにしたのは、甲子園球場でのエマーソン・レイク&パーマーの
前座だけである。時は多分1972年。金森幸介も同じ会場にいたらしい。
しかし、もはやフリーとはとても名乗れないようなバンド状態だった。
彼らは前年に解散していたと思うので、一応”再結成”だったのかも知れない。
ベースにはアンディーに代わり山内テツ。もはやヘロヘロ状態だったコゾフは参加できず、
キーボード奏者が同行していた。その名もラビット君。
我々の音楽人生にほんの一瞬登場したその名を、私も金森幸介も現在に至るまで忘れ得ない。
ラビット...ブリティッシュ・ロッカーにあるまじきプリティーネームである。お前は関根勤か!
あの夜"All Right Now"を演らなかったのは、あの曲はテツには荷が重すぎたからかな。
それともやっぱりall rightじゃなかったからなのかな。

エマーソン・レイク&パーマーというバンドも今思えば相当にトホホなバンドだった。
大仰しいそのサウンドとは裏腹にカール・パーマー脱退後、”EL&P"という呼称を持続するために
同じ頭文字のコージー・パウエルを迎え入れるなど、けっこうチマチマした奴らだった。
なら、ピンキーとキラーズのドラマー、パンチョ加賀美だってOKじゃないか。
エマーソン・レイク&パンチョ...ソンブレロが似合いそうですな。
グレッグ・レイクは”ホーム・アローン”のカルキン君の兄弟にいたような太っちょで
キース・エマーソンはジーコ監督にアルシンドの髪型をのっけたような印象だった。
って、今そう思っただけだけど。
しかもこのジーコ、並べて置けば楽だろうに数台のキーボードをわざわざ遠くセッティングして
思いっきり両手を伸ばして鍵盤を叩き、
茶箪笥のように巨大なムーグのつまみを苦悶の表情でいじくるのである。
このあたりのハッタリ・コケオドシはイエスのリック・ウェイクマンの金マントと共に
我々の現在に至るまでの語り草である。でも大好きよイエス。
EL&Pの演奏途中で興奮した観客が甲子園のグランドに押し寄せてパニックに。
ステージの電源が切られ、そのままコンサートは終わってしまった。
カール・パーマーはしばし生音でドラムソロを披露してくれたが、
電気を失ったジーコ&太っちょに成す術はなかった。
この頃から関西人はやはりイチビリであった。おとなしく聴いておれんのである。
道頓堀ダイブと根は同じかも知れない。
山下達郎やジェイムス・テイラーに対する「ハゲコール」も関西人にしてみれば
親愛の情の発露なのだが、場と空気をわきまえないのもまた関西人である。
しかしまあ、アルシンドヘアーのジーコの演奏にそないにエキサイトしてどうする。
ドサクサまぎれに甲子園の土を持って帰ったファンもいたらしいから、高校球児もガッカリである。
とにもかくにも生ポール・ロジャースを見れただけで当時高校生の私は満足だったのである。

そんなポール・ロジャースがクイーンのボーカリストとして今回日本にやってきた。
ご周知のとおり、天召されたフレディー・マーキュリーの代役としての参加である。
マッチョ&乙女チックなフレディーは文字通りクイーンの顔だった。アクの強さでは天下一品。
そんな大看板の代役なぞ並大抵では勤まらない。何故にポール・ロジャース?
無茶なブッキングにもホドがあるのである。
金森幸介がマーク・パンサーに代わってglobeに加入するようなもんである。
もっと適役がおるやろ!とも思うけど、あらためて考えるとけっこう難しい。
公演する国々でボーカルを現地調達しても良かったかも知れない。
イタリアではパヴァロッティ。本国イギリスではもちろんエルトン御大。
日本ではやはりカウンター・テナーの持ち主、もののけ米良美一で決まりだ。

私はクイーンも決して嫌いじゃない。
でもどちらかというとソロのフレディーのほうがより奔放で好感が持てる。
分厚いルージュ、眩いスパンコール・ドレスを身にまとい、恍惚の表情で歌う
”ザ・グレート・プリテンダー”などは青江美奈もまっつぁおのお色気である。
見えすぎちゃって困るの~マスプロアンテナである。

先日、たまたまテレビのワイドショーを見ていると、来日にあわせてか
「クイーン命!おじさん」が紹介されていた。
おじさんはロック、特にクイーンが大好きでコピーバンドを仲間内で結成したそうな。
コピーバンドといってもおとなしくクイーンの楽曲を真似て演奏するだけではない。
クイーンになりきるのである。

世に”なりきりバンド”は多い。最たる対象はやはりビートルズだ。
メンバーがそれぞれリンゴ、ジョージ、ポールそしてジョンになりきってステージ衣装や
楽器にいたるまで本家と同じものを揃えてご満悦しちゃうのだ。
実は以前に私も”左利き”を買われてポール役としてお誘いを受けたことがあったが、
丁寧にご辞退した。ブラック・サバスのアイオミ役だったら受けたかも知れないし、
ジミヘンなら今すぐにでもやりたいけど。
昔海外にも”ビートルマニア”なるプロのなりきりバンドがあったけど、
”どの時代の”なりきりかも重要なポイントであるらしい。そりゃそうだ。
プリーズ・プリーズ・ミーの三人の中にアビーロードのジョンが混じってたりしたら
3年B組たのきんトリオと金八先生だ。
なかにはヨーコ役をセッティングしてるツワモノもいて恐ろしい。

昔からベンチャーズやレッド・ツェッペリン、ストーンズなどのなりきりバンドは数多いし、
それなりに体裁がついているのもけっこう見かける。
でも、日本人にクイーンは無理があるだろ。ボヘミアンというよりオテモヤン・ラプソディーだ。
テレビの「クイーン命!おじさん」 相当に寂しくなったいわゆるバーコード頭を振り振り
チョビヒゲ短髪ピッチリパンツの絶頂期フレディーのなりきりを演じるのである。
しかし悲しいかな、どこから見ても谷村チンペイにしか見えないのである。
しかもバンドもヘタッピ。よく見ればブライアン・メイ役はベーヤン、
ロジャー・テイラー役はキンチャンに見えなくもない。
まあ、”チャンピオンつながり”とは言えるかも知れないけど...

さて今回のポール・ロジャース&クイーンである。僕は公演に行けなかったので
なんとも言える立場じゃないけれど、ヨーロッパ公演の模様などを伝え聞くところによると
かなり好評だったようである。
今回の日本公演でもきっとフリーやバドカンの曲も歌ったんだろうけど...
「クイーン命!おじさん」を笑える立場に僕はいない。ポール...君もall rightなのかな。