top of page

エピソード32 夢であいましょう

ヘッドフォンをしたおっさんが真夜中にノートPCの画面を前に号泣している図を
想像してください。それはもう不気味であります。少なくとも私なら近づかない。
しかし今回のそのおっさんとは他ならぬ私なのです。
私であり実は金森幸介でもあります。秋深し我々は涙もろい男なのであります。

ジョージ・ハリソンがこの世を去ってからもうすぐ4年を迎えようとしている。
ほんと時の経つのは早い。
一周忌の2002年11月29日に"CONCERT FOR GEORGE"と題されたコンサートが
ロイヤル・アルバート・ホールで開催された。
その模様を記録したDVDを観ながら不覚にも私はヨヨと泣き崩れてしまったのだ。
そしてその後、ポポと心温まってしまったのだ。
金森幸介経由でお借りしたこのDVDはとにかく我々をヨヨ&ポポ状態に誘ったのである。

このコンサートはあまりに素敵だ。
それはきっとジョージ・ハリソンという男があまりに素敵だったからに他ならない。
今回の音頭をとったのはエリック・クラプトンらしい。
参加メンバーの豪華さは話せばきりがないので省略する。

ジョージとエリックの関係は複雑である。
親友だったジョージの奥さんであるパティにエリックは横恋慕しちゃったのである。
ややこしい三角関係。かなり深刻なラブアフェアである。
禁断の恋に灼かれたエリック・クラプトンが苦悩の中で書き上げたのがかの世紀の名曲
”いとしのレイラ”だとされる。
この曲が収録されているのは、”デレク&ドミノス”というバンド名義のアルバムだが、
CDショップでは”エリック・クラプトン”の棚に収められていたりする。
私にとってのエリック・クラプトンのベストは後にも先にもこれである。
演奏も歌も完璧と呼ぶにはほど遠いけど、良いバンドなのだ。
しかしカール・レイドルとデュアン・オールマンはすでになく、
ジム・ゴードンに至っては獄中にいたなんて噂を聞いた。
ボビー・ウィットロックはエエ人らしい。彼の友人である能勢の喫茶店主が言ってる。
そう、今度の日曜日に金森、有山両氏のライブが行われる喫茶店主である。

その後、ヘロヘロボロボロになったエリックだったが、
いつのまにか復活を遂げ、あれよあれよという間にグラミー賞まで獲得。
押しも押されもせぬトップミュージシャンの座に君臨しちゃうのである。
でも私の感じ方はちょっと違う。”いとしのレイラ”以降、
そうこの30数年のクラプトンは”もぬけの殻”状態だったと。
そりゃヴェルサーチのスーツでイケメン、ギターテクは超一流だし、歌もうまくなった。
でもなんか足りない。あの天才が30数年を棒に振ったのだ。あくまでも私の中ではね。
エリック・クラプトンは天から二物どころか、何物も与えられた男だ。
一物も与えられていない私などには羨ましい限り。
それもすべての才は超一流。でもエリックは”あかんたれ”である。
志垣太郎である。花登筐である。
子供の頃の家庭環境が原因だとは言われているけど、絶えずなにかに依存症なのだ。
カルト宗教やマルチ商法や出会い系にハマりやすいクチなのである。なんでやねん。

それが今回のコンサートである。
エリックが歌った"Isn't it a Pity""something"の切なさったら...
白眉は"Whille My Guitar Gently Weeps"
間違いなくなにかが降りてきている。鳥肌が立った。
こんなに焦点が定まり覚醒し、愛にあふれたたエリック・クラプトンなんて見たことがない。
ピアノとハーモニーはポール・マッカートニー。ドラムにはリンゴ・スターも。
レコーディングメンバーが三人揃っているのだ。
若き日のジョージに生き写しの忘れ形見ダーニ・ハリソンもギターで参加している。
父親譲りの涼しい眼差しを持つ好青年だ。
エリックは自らのレコーディング・フレーズを見事に再現して見せた。
でも決してweepsじゃない。それどころか歓喜に満ちた演奏である。
そう、このコンサートに集ったみんなは「ジョージ、俺たち、君の分まで充実した日々を
おくっていくよ。君の遺したものをずっと伝えていくよ」という愛に満ちているのだ。
全員の心のベクトルが寸分たがわず同じ座標を目指しているのだ。
それは「天国のジョージがなにを望むか」だ。なんたって"CONCERT FOR GEORGE"だもの。
追悼の集いを企画するとしたら、やはり没直後じゃ無理なのかなあと思う。
残された一人一人の胸の中にその死についての決着がちゃんとつくまで
最低でも季節を四つ巡らせなくてはならないのかも知れない。
ただ送るなら葬儀に参列すればいい。亡くなってすぐの追悼の集いはなんだか
結婚式のあとの友人有志の二次会パーティーのようで気が引ける。
しかしこのコンサート、とにかく涙、涙、また涙である。
ホッコリ、ホッコリ、またホッコリなのである。
エリック、見直したぞ。ジョージの楽曲の素晴らしさも再発見。
なんて暖かいコンサートなんだろう。ジョージ、素敵過ぎるぞ。

モンティー・パイソンのお下劣ネタが、生前のジョージの意外な一面を感じさせてホッコリ。
ロイヤルアルバートホールのステージで尻を見せちゃうおっさんたちにも乾杯。
森のきこりのコーラス隊になにげにトム・ハンクスが参加してたり、小粋なのである。
トム・ペティーは相変わらずスリムでかっこいい。
でもスリム過ぎて掛け軸の幽霊画に見えてしかたない。

ジョージとの三角関係が産み落とした”いとしのレイラ”から30数年。
ジョージの死によってエリック・クラプトンが私の中で復活した。
30数年の借金を一気に返して利子もたんまりつけて。
エリック・クラプトンとジョージ・ハリソン...やっぱりカッコよかです。 

ジョー・ブラウンがウクレレで歌う"I'll See You In My Dreams"でフィナーレを迎える。
アルバートホールの天井から紙吹雪が舞い降りる。そう、”夢で逢いましょう”
傍らのダーニの肩を引寄せるエリック。
十代の僕が憧れたあの危なっかしいエリック・クラプトンはもうそこにはいない。
エリック、素敵なおっさんになったなあ。
ステージと観客席の誰もがホッコリした表情だ。外は寒い。寄り添って家に帰ろう。

もう四の五の言わない。とにかく必見というのはこれのことだ。
映画として観ても素晴らしい。これを観ずして死ぬのは人生の歓びを十分の一くらい損する。
...えっ?みんなもうとっくに見てる?知らなかったの私と金森幸介だけ?

gh.jpg
bottom of page