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エピソード37 goodnight sweetheart

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あまり意識をしてはいないけれど、音楽を聴くのにもT.P.O.が関係しますね。
私の場合、なんぼ好きでも朝起きぬけにジェームス・ブラウンを聴く気にはなれません。
でも「朝はなんちゅーても納豆と青汁とJ.B.やで~」という豪快さんもおられるかもしれません。

先日、またもや金森幸介からCDを貰った。
Gerry Mulliganの"Night Light"である。
これはいわくつきで、昔から金森幸介が就寝時によく聴いているCDらしいのだが
最近、有山じゅんじ氏も同じようにこのCDを”寝るときミュージック”として
お気に入りだったことが判明したのである。奇遇である。

そういわれて聴いてみると、確かにその通りである。
バリトンサックスという楽器の発する周波数が安眠へ導くにエエ塩梅なのかもしれない。
でも私はどっちかというと”お食事ミュージック”として気に入ってしまった。
食事時に聴きたい音楽というのはなかなか難しい。
なんにもないのが光るんだいって気分のときもある。
"Night Light"はバーやラウンジより、夜のレストラン、いや質素なビストロにお似合いだ。
私の場合、深夜に帰宅し、ガランとしたダイニングキッチンで一人、
生焼けのハムエッグにカチカチのバケットをかじりながら、気の抜けたコーラなんかを
飲んでいるときに聴いている。音を消したテレビの画面だけをボケ~ッと見ながら。
トホホさを少しだけでもハードボイルドに転化してくれる気がするのである。
でも幸介&有山が同じこの夜に、二人して一緒の音楽を聴きながら寝ているのを想像すると
ちょっと気色悪い。
しかしGerry MulliganのCDが100円ショップで売られてたりするからえらい時代であります。

もうひとつ、金森幸介がおやすみミュージュックとして愛聴するCDに"Screenplaying "がある。
Mark Knopflerが音楽を担当した映画四作品から18曲が収められている。
私もこれをベッドサイドのラジカセから小音量で流しながら眠りにつくのが好きだ。
哀愁最終便。ジェットストリームである。
皆様の夜間飛行のお供をするパイロットは私、城達也です。である。
あの頃はJALにも余裕があったのである。いらんこと言わんでええっちゅう話である。
そう"Screenplaying "の話である。
ギラツキを抑えたギターとストリングス、そしてティンホイッスルなどで紡がれた音の世界は
まさにリラックスの極致に導いてくれる。
「音の岩盤浴や~!」と、いつも彦摩呂なみのリアクションをしてしまう私である。
パジャマにナイトキャップの金森幸介は「今宵の褥(しとね)は君に決定!」とばかり
いそいそと再生機に"Screenplaying "を挿入するのである。
おやすみにジャストな音量も心得たものである。
部屋の灯りを消し、フトンの海に沈みこむ。ん~ 心地よく眠れそう。しぁ~わせ。
この時点で金森幸介は気づいていない。このCDに仕掛けられたげに恐ろしき落とし穴を。

最終18曲目に収められているのが”ローカルヒーロー”のテーマ"going home"である。
この曲もそれまでと同じように空間系エフェクトの心地よいギターで静かに幕を開ける。
まどろみが頂点に達し、今まさに眠りの世界に誘(いざな)われようとした瞬間、
平和だった脳内の田園風景に鉛の兵隊とニクソンが突如侵略を始めるのである。
ドラムが無作法ににも”ドドドドッ!”とフィルインすると同時に曲相はガラっと変わり、
レベルも倍以上に跳ね上がる。
リズムはエイトビートというより重厚なツービート系。ある意味マーチである。
「イッチニ イッチニ!」「かあちゃんたちには内緒だぞ~」みたいな号令をかけながら
むくつけき外人部隊の行進の始まり始まりである。
アルトサックスが進軍ラッパのごとく高らかにメロディーをノリノリで奏でる。
ありゃま、いつのまにかギターも歪み系に変わってるぜよ。おいおいマーク!!
眠りの世界から一瞬で引きずり戻された金森幸介もパジャマ姿で行進するしかない。
「イッチニ イッチニ! イッチニ イッチニ!....って、眠れるか~!」

全編牧歌的な空気が流れるこのCD、最後だけえらいストロング・スタイルで終わるのである。
とにかくアルトサックスの周波数は眠りにはむかないということだけは断言しておこう。
分かっているのにいつも忘れてこれをおやすみミュージックに選んでしまう我々である。

しかし最近なんとipodを入手した幸介氏。
18曲目だけをオフにするワザを憶えてめでたしめでたし。
それじゃみなさん、おやすみなさい。

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