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エピソード56 weekday in the park 後編

月曜日に文庫を買って~ 火曜日に公園で読む~
テュリャテュリャテュリャ...
自宅近くの古書店恒例の「店長号泣セール」でゲットした文庫本などを小脇に
散歩日和の春の日にホテホテと公園に出かける金森幸介であります。
そう、以前"He's Message"に登場した、彼が男の子と女の子に弄ばれた公園であります。

平日の公園では小さな子供連れの主婦や老夫婦たちがのんびり半日を過ごしている。
働き盛りの男性の姿など皆無である。それぞれ職場で目下モーレツ生産中である。
しかし本を小脇のこの働き盛りは、芝生の上に設えられた背もたれつきの木製ベンチに
腰掛けて淡い四月の陽光を浴びながら読書を始めたのである。

半分ほど読み進んだところで、なにやら傍らから視線を感じるのである。
人の気配はないが視線は感じる。「はて面妖な...」とそっと右手を見てみると、
彼が座るベンチの背もたれの上に一羽の鳥が止まっているのである。
金森幸介によると「スズメではない、名もない小鳥」なのだけれど、
名前はあるが彼が知らないだけだと思う。

名もない小鳥は金森幸介を見つめていた。
キョトンと小首をかしげて彼を見つめていた。
金森幸介も小首をかしげて小鳥を見つめた。
瞬時に一人と一羽はお互いのすべてを分かり合った。
悪意のないことを確認しあった。
高田浩吉の「白鷺三味線」のようにピーチクパーチク深い仲になった。

小鳥は言った。「おじさん、さっきから熱心になに読んでるの?」
「ああ、これかい?これはね坊や、”ペット・サウンズ”といってね
ビーチ・ボーイズの名盤に纏わるエピソードを綴った本なんだよ。
村上春樹という人が翻訳していてね、とても興味深い内容なんだ。」
「へ~、面白そうだね。ところで平日のお昼間に仕事もしないで読書三昧なんて
おじさんも音楽やってる人?」と小鳥。
「まあ、音楽やってるいうたらオコガマシイけどね、やってないといえば
ウソになるっちゅう話やね。やってない以上やってる未満ていうとこかな。
そんなおじさんなんだよ。おじさんは。”おじさんルンバ”は桜たまこだよ。
仕事もしないでっちゅうけどね、ボーイ。こんなん読むのも仕事の一環なんだよ。
”鉄板少女”とか”鹿男あをによし”とか毎週観るのも仕事なんだよ。
そうだ、この本に載ってたええ話、聞かせてあげようか?
”サーファーガール”って名曲があるよね。ブライアン・ウィルソンはある曲から
メロディーを拝借して作ったっていうんだけど、坊や、分かるかな?」
「う~ん、なにかなあ?」
「分からないかい?実はおじさんも知らんかったんだけどね。面目ない。
”星に願いを”なんだよ。ディズニー映画の”ピノキオ”でコオロギが歌う曲。
フンフンフンフンフンフンフン~(口ずさむ)
little surfer little one made my heart come all undone...ほらね。」
名もない小鳥とブライアン・ウィルソンと村上春樹とひとり共産主義。
そしてタカ派帝国の覇者ウォルト・ディズニー...
柔らかな陽光の差す極東の公園ですべてが解けて流れての~え。
B.G.M.日本民謡代表「のーえ節」合いの手は「サイサイ」

微笑む金森幸介。うなずく小鳥。
「じゃ、もう僕は行くね。おじさん、いろいろ頑張ってね。」
飛び去る小鳥。B.G.M.ニール・ヤング ”バーズ”

白昼夢から目覚め、我に帰る金森幸介。
傍らで鳩が、クックルッククーパロマ~と歌っていましたとさ。

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