エピソード64 諫早湾に涙して

初夏の中国九州地方を巡った金森幸介のツアーはいつものように粛々と幕を閉じたようである。
帰阪した金森幸介の第一声は「俺は車窓から望む諫早湾に涙した」というものであった。
さすがは社会派シンガーソングライター光玄氏の盟友である。
干拓事業により破壊される生態系に心を痛めたかと思ったら、違った。
ツアーに出発する前に知人からあるグループのCDを貰ったそうである。
今、彼の周りの音楽好きはこぞってこのグループに首ったけであるらしい。
彼の周りの音楽好きといえば、皆不惑を遠の昔に超え、円熟に突入した
いわば「音楽仙人」と称してもよいような尊敬に値する御仁ばかりである。
私などまだまだケツの青い蒼井 優ちゃんである。
そんな音楽マイスターたちがこぞって夢中になっているというグループの音源を
iPodで聞きながら諫早湾の風景を眺めていたら切なくて涙が出たというのである。

酸いも甘いも噛み分けた老練音楽ソムリエたちがチョイスした
芳醇なる香りを放つ究極のシングルモルトのスコッチとは....

Perfumeであります。
みなさん、ご存知ですか?広島県出身の女の子三人組ですよ。
テクノポップ調の楽曲にヴォコーダーで色づけされたボーカルがキュートで人気爆発中ですよ。
金森幸介をして「平成のキャンディーズ」などと云わしめたアイドルですよ。
はいはい、なんか投げやりになってきましたよ。


金森幸介は深夜のコーヒーショップでPerfumeに対するラブコールを
傍目も気にせず熱く語ったのである。
隣に座っていた二十代の女性二人組は後で話し合ったに違いない。
「なに、あのおっさんら!『俺はなんちゅうても”のっち派”やな』とか
『”チョコレイト・ディスコ”も捨て難いけどなんちゅうても”マカロニ”が泣けるのよね』
とか、もうキモイったらないんちゃうの!」
「それに二人とも着てたTシャツ見た?”グレイトフルデッド”に”キース・ジャレット”やて
なんぼほどクロスオーバーしてんねんな。ヘンタイ違うん?」
「それに背高い方のおっさんの足見た?鶏ガラみたいな足に派手な靴下はいて。」
「そうそう、それになんか加齢臭漂ってなかった?お前らがパフュームつけろって感じ」
「なんか超受ける~!絶対軽い尿漏れなんかもしてるよね~!パンパースもつけろって感じ」
私はもう泣きたい。

帰宅途中の車中で金森幸介から貰ったPerfumeの"GAME"というCDを再生してみた。
車窓からは諫早湾は見えなかったが、早朝の霞煙る淀川を渡りながら、
なんだか胸がキュンとなったヘンタイおじさんであった。
帰宅すると、塾の夏期講習に向かう長男が家を出るところだった。
私が手に持ったCDを見つけ、「あれ?Perfumeやんか。俺もこれ持ってるよ」と言うではないか。
いつもはオルタナ系のバンドの音源しか聴かない長男が
「”マカロニ”ええよね!」と爽やかに微笑みながら塾へ向かっていった。
こいつも金森幸介に似てきたんかよと思うと将来がちょっぴり不安になる父親であった。