エピソード71 パッチー ニューイヤー

2008年ももうすぐ終わろうという師走のある夜、
金森幸介と私はいつもの店でコーヒーを啜っていた。
コクリと喉を鳴らし、コーヒーカップを静かに置いた金森幸介はいつになく神妙な声で言った。

幸 「寒いな...」
私 「冬やからな」
幸 「...今年の冬は特に寒そうやな」
私 「そうかも知れんな」
幸 「...それでや、折り入ってお前に言うときたいことがあるんや」
私 「折り入るかあ...なんや?」
幸 「今年の冬は遂に...俺...あれ穿くかも知れん」
私 「あれって...もしかして...あれか?」
幸 「そうや、あれや...パッチや...よる年波には勝てんちゅうこっちゃなあ」
私 「....」
幸 「って、パッチいうてもユニクロとかで売ってるハイテク素材のタイツやで」
私 「ハイカラな名前にすり替えてもパッチはパッチや。ブルータス、いや幸介、お前もか...」

金森幸介と私はいかに寒い冬であろうとこれまでパッチを穿かずに通してきた。
何故に?それは我々が愛着してやまないボトム、ジーンズにパッチが似合わないからである。
脚とジーンズとの蜜月に異物が分け入るなど我々の美学が許さない。
金森幸介のあのラブリーな靴下がパッチの上に捲り込まれるなんて想像するだに悲しいじゃないか。
同年代の知人達が次々とパッチ着用者に転向するなか、
我々だけはノンパッチソサエティー(略称 N.P.S.)であり続けたのである。
夕暮れ時はさびしそうである。それはN.S.P.である。
ノンパッチは単なるやせ我慢ではない。スピリットである。アイデンティティーである。
我々を孤高のノンパッチャーと呼んでくれ。

私 「さびしいけど、男の旅だちを止めることはでけへん。アデュー。振り向かずに行けよ。
   けど、いっぺん向こう側に行ったらもうこの場所には戻ってくるなよ」
幸 「...す、す、すまん!hiro!俺、ちょっと弱気になってた。やっぱノンパッチで通すわ!」
私 「...そ、そうか。思い直してくれたか!ビバ!ノンパッチ!パッチに災いあれ~!」
幸 「そやけどな、hiro、花園だけはお目こぼししてくれるか?」
私 「えらいもん干すねんな...いや...かまへん。かまへん。そういう非日常下はノープロブレムや」
幸 「そうか、すまんのお」

P.A.のZ氏と連れ立っての花園でのラグビー観戦は金森幸介、例年の正月行事である。
ゲームは熱いが、吹きさらしのスタンド席は寒い。ここではとっても一人じゃいられない。
...いや、とってもノンパッチじゃいられな~い~。(by N.S.P.)
私から特別のお目こぼしを受け、年に一度のパッチマンとなった金森幸介は
この新年もZ氏と花園ラグビー場へ出かけた。
観戦を終えた帰路、Z氏の駆る車が高速道路の乗り継ぎを間違え、中国自動車道に合流してしまった。
 
Z   「すまん幸介、次のインターで降りるから、宝塚から電車に乗ってくれるか?」
幸    「ぜんぜんかまへんで...って、た、た、たっからづか!たっからづかいうたら、
  たっからづか歌劇団のたっからづかか?」
Z   「そらそうやがな」
幸 「たっからづか~!たっからづか~!あかん、あかんでぇ~!
  俺はたっからづかでは今や作詞作曲の先生やでぇ~。
  万が一やな、俺が街歩いてて顔さしてやな、タカラジェンヌに見つかってみいや
  『あ~らセンセイ、今夜は帰りたくないわあ』てなこと言われてやな
  シッポリいったりしたりしてやな、いざジーパン脱ごかっちゅうときに、ふと気づくわけや
  なにが悲しいいうて、一年で一日きりのパッチングデーやがな。
  タカラジェンヌにパッチは合わんがな。銀ちゃんの恋も醒めるっちゅう話やがな。な?Z」
Z   「...なんぼ新年やいうても、あんたほんまにおめでたい人やね」
幸 「こんなんばっかり150パターンくらい思いついてしもてん」

あまりにトホホではありますが実話であります。
還暦を迎えられた今も中川イサト氏はノンパッチでおられるらしいです。
金冷法なんていう民間回春法もあるくらいでして、
ノンパッチこそアンチエイジングの旗手であります。か?
それでは皆さん、今年もよろしくお願いします。