top of page

エピソード88 初秋に向け我思ふことあり

金森幸介の"LOST SONGS"のレコーディングは三重県津市のとあるスタジオで行われた。
今を去ること...かなり昔の話である。
その日、私はたまたま金森幸介に同行していたのである。
前日から夜を徹してレコーディングは順調に進行していた。
昼時をむかえ、ここらで昼食でも食おうじゃないかということになった。
メンバーはスタジオの岩佐均氏、tambourine man、金森幸介、白井幹夫氏、そして私の五人である。

地元民である岩佐氏が案内してくれたのはスタジオの裏手にある鰻屋さんであった。
かなり立派な店構えである。気後れする私。し、敷居が高い。
二階の座敷に通されると広い店内はほぼ満席状態である。
近所のサラリーマンやら主婦のグループが皆、豪華なコースを食している。
鰻の蒲焼に肝吸い、鰻巻にご飯、漬物が付いている。威風堂々の鰻である。
ざっとソロバンをはじくと、値段は4800円といったところだろうか。
市井の人々が昼食に鰻コースとは、津は三重の田園調布か、はたまた芦屋六麓荘。
昼食に4800円出費は当時の私の経済状態としては痛い。かなり痛い。悪夢のように痛い。
リーマン・ショック後の現在の経済状態では壊滅的に痛い。というかあり得ない。
しかし連れの皆は、涼しい顔で豪華鰻コースを注文するのである。
経済状態でいえば私とどっこいどっこいであるはずの金森幸介まで平気の平左くんである。

「お、俺はあんまり腹減ってないから、う、うな丼の梅でええわ...」とうろたえる私に
岩佐氏が「かまへんかまへん、みんなと一緒のんにしとき」とおっしゃる。
しかたなく皆と同じ定食を注文し、トイレに行くふりをしてサイフの中身を確かめた。
まあ、なんとか払えるだろうが、帰りの高速料金は心もとなくなる。
ビールなどを飲みつつ料理がくるまで歓談する五人ではあるが、私は心ここにあらずである。
料理が運ばれてきた。やはり豪華である。華麗である。華絵巻である。
え~い!ままよ!と最早ヤケクソで頬張りはじめる私。
う、うまい。後が怖いけどうまい。ジューシーな鰻である。うま過ぎる。
「口の中がレッ津・デ・ドックや~!」と思わず懐かしいフレーズを叫ぶ私。
これはゲーセンオーバーも覚悟せねばならないかもしれない。
バンドマン用語で”五千円超え”の意味である。厨房で皿を洗う自分の姿が浮かぶ。

清水の舞台からバンジージャンプを決めた覚悟で食した鰻だったが、
いざ会計の段に至って私は腰が砕けそうになった。
なんと、請求は「お一人様1300円也」だったのである。
津の鰻はうまい。うまくて安い。
よく大阪の人間は舌が肥えているように思われがちだが、断固としてそんなことはない。
あの味が忘れられず、その後も地元大阪で鰻を何度か食したが、
倍ほどのプライスで味は十分の一というものがほとんどだった。
あれから幾星霜、私は津の地を踏んでいない。嗚呼、今生のうちに今一度津の鰻が食いたい。

と思っていたら、来る9月5日の土曜日、津で行われるライブに金森センセイが
参加されるというじゃありませんか。
しかも主演は我がウナギ師匠、売る気かい!というほど楽器を持ってくる男、岩佐均!
そして共演は本番直前でもかまわず腹パンパンに食う男、光玄!
二人共こと強壮にかけては「おをによし下半身がウナギ男」と評される益荒男(ますらお)である。
これほど「昼は鰻で精つけて、夜はライブでハッスル!ツアー」にうってつけのメンツはない。
鰻とライブの合間にオプションで「三時のおやつは国際秘法館」も検討したけれど
調べてみたら一昨年に閉館になっていました。残念。

鰻の旬は秋から冬にかけてである。味覚の秋の食べ初めは「津で鰻三昧」に決定である。
9月5日、幸介強壮ヘッズはこぞって津に集合!

unagi.jpg
bottom of page