エピソード98 黄昏もまた楽し

我が町の図書館では年末年始の休館期間には普段の倍数10冊を一度に借りることができます。
なので、あれやこれやとたんまりと借り出した中に、去年の夏に邦訳版が刊行された
カズオ・イシグロ 「夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」がありました。
珍しく短編集であります。
人生や愛における黄昏どきの風景が様々な音楽に絡めて語られています。

「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日年越しスペシャル
絶対に笑ってはいけないホテルマン24時」のマツコデラックスに吹き出し、
「hiro アウト!」と尻を引っ叩かれまくった新年早々、
次男と共に出かけた、ダルビッシュ有君も氏子である近所の神社で「末小吉」などという
リアクションに困るビミョーなランクのおみくじをゲットし、「今年も思いやられまんなあ」と
トボトボと帰宅し、ひも解いた本年最初の読書は、その短編集の第一篇「老歌手」であった。
原題は"Crooner"  以前金森幸介を称して、ここでご紹介した唱法とその歌手の意である。

ベネチアのカフェバンドで細々とギターを弾いている旧共産圏国家出身の若い音楽家が
アメリカから来た往年の大歌手トニー・ガードナー夫婦に出会う。
トニーの人生もその音楽家としてのキャリアも共に黄昏どきを迎えている。
若きギター弾きはトニーに頼まれ、彼と共にゴンドラに乗り、彼が妻の窓辺で
想い出のセレナーデを歌う伴奏をすることになる。

他四篇もつかず離れずに絡み合い、一冊がコンセプトアルバムのように感じる作りの作品なのだけど
私が気になったのは、「老歌手」のトニー・ガードナーの年齢である。
どうやら60過ぎといった設定なのである。
金森幸介の実年齢と大差ないのである。ということは金森幸介もまた「老歌手」なのである。

かの一休さんは「門松は冥土の旅の一里塚 めでたくもありめでたくもなし」という歌を遺している。
アニメとかで見るお茶目なイメージとは程遠い、ほんま気ぃの悪いおっさんである。
新年早々、わざわざそんな話題を持ち出す私もまた、輪をかけて気ぃの悪いおっさんである。

時の経過と共に我々は皆、死に向かって確実に進んでいるのである。
そう、老いていくのである。誰もそれを止めることはできないのである。
拝観生き仏さまと謳われる金森幸介といえども実は普通の人間。例外ではないのである。

金森幸介は旧年中、かなり頻繁に深刻な病に見舞われました。
特に年末に発症した帯状疱疹は相当こたえたようであります。
帯状疱疹とは、子供の頃にかかった水痘のウィルスが体内に潜伏していて
それがなんらかの影響で活性化され、全身のそこここに帯状の疱疹を出現させる病気であります。
発症した箇所次第では精神に異常をきたしたり、最悪の場合死に至るほどの危険な病だそうです。
金森本人の弁によると「夜も寝られんほど痛くて辛いよ~ん!」だそうであります。
粟粒結核 網膜剥離 真性包茎など、四文字病気の権威である金森センセイをもってしても
今回の帯状疱疹にはかなり泣かされたようです。

「家庭の医学」の帯状疱疹の欄を紐解いてみた金森幸介はその「病因」として
「過労 神経の使いすぎ 老化(70歳以上)」とあるのを見止めてしまうのであります。
彼は考えた。「俺、過労とは縁遠いわなあ。神経もあんまし使とらんわなあ。
...っちゅうことは、原因は老化かい!しかも70歳以上て...
俺はもう老人なんや。おじいちゃんなんや。死にかけなんや。譲二ショ~ック!
でもしゃあないな。ほんまに老人なんやから」

一生青春 万年青年 生涯現役 とかいうこれまた四文字お題目をよく耳にする。
「アンチ・エイジング」なんていうのも最近ハバをきかせている。
私は大キライである。
人は無用に時に抗わず、あるがまま年老いていくべきだと私は思うのである。
時の流れに身をまかせ とテレサ・テンも歌っていたではないか。

世代は次から次へと生まれ育ち、綿々と我々の後に控えているのである。
チャッチャッと頑張って生きて、それなりにフケて、熟したら静かにお迎えを待つ。
そんな晩年を私は夢見ている。というか最早実践の域に達している。
見た目だけ若くても、やることブレだらけ、ダラダラと利権にしがみ付いたりとは見苦しい。
せめて社会の老害にはなりたくない。お役には立たなくとも。
後続組がティーで待っているのに平然ちんたらと遅延プレイを続けるゴルファーにはなりたくない。
白洲次郎はゴルフ理念のトップに”play first"を揚げ、Tシャツにプリントして着用したという。
晩年、迅速なプレイが出来なくなったと自覚するや早々にゴルフからリタイヤした。
昨今の世間での評価は少々過大な気もするし、単にセッカチ君だという話もあるけれど、
白洲次郎、さすがにまあカッコいい。

子どもたちは自分がカッコいいと感じるオトナの言うことしか聞かない。
どんなにブツクサ小言を言っても、どんなに崇高なマニフェストを掲げても
潔くないカッコわるいオトナの言うことは子どもたちには届かないし信用しない。
アンチ・エイジングな見た目でなく、信念から滲み出るカッコよさを子どもは見逃さない。
子どもたちに少しでもマシな世界を残そうと励むオトナはきっとカッコいい。
金森幸介は元気な子どもたちの姿を眺めるのが大好きである。
それはもはや、孫を愛でる祖父の眼差しである。
たとえ寒風の中でのラグビー観戦のためとはいえ、ユニクロのヒートテック・タイツを入手した
金森幸介は見た目こそ若いが、やはり下半身はもはやご老人の域である。
なんでも、Tシャツ、タイツ、ソックスのヒートテック三つ揃えだそうである。
ついでにブラトップも一枚購入して鏡の前で「吹石一恵で~す」と呟いてみたそうである。
本人も「タイツっていうたら聞こえはええけどあれははっきりとパッチや」と述べている。
私も僅かに年下ではあるが、下半身の衰えは右に同じ状態である。泌尿器系老化は顕著である。
でもそれもまた風雅。ビバ残尿感!である。カモン軽い尿漏れ!ウェルカム前立腺肥大!である。
一生青春 万年青年 生涯現役 クロくらえ!である。

カズオ・イシグロ 「夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」に登場する
黄昏どきを迎えた人生や愛は、必ずしもハッピーエンドには終わらないし、
時に笑い泣きしてしまうほど滑稽だったりもする。
叶わなかった夢もある。忘れ物も山ほど残してきた。でも決して悲観することはない。
黄昏もまた、きっと楽しい。
晩年の森繁さんみたく、ボケたふりをして女性のヒップにタッチできるなんて
ほんと、ワクワクするほど黄昏もまた楽しである。