エピソード7 悪魔と呼ばれた男
金森幸介は、めったな事で、人を罵倒したりしない男だ。
過去に一人、そんな彼に「悪魔」呼ばわりされた人間がいる。
他でもない、この私だ。
三重県から高速道路で大阪へ帰る道すがらの出来事。
運転していたのは私だったが、電話をかける為、パーキングに車を駐め、
助手席に金森幸介ひとりを残し、電話ボックスへ走った。
この時、助手席側の隣には赤い小型車が駐まっていた。
車内に仔犬が残されていたので、若い女性の車かなと思われた。
その車との間隔が少し狭いようだったが、
すぐに戻るつもりだったので、気にはとめなかった。
それが金森幸介の悲劇の始まりだったのだ。
電話ボックスに着いた私だったが、小銭入れを車内に忘れたことに気付き、
急いで取りに戻った。
その時、金森幸介の顔がいくぶん、「引きつった笑顔を見せている~」
ように思えたが、気にせず再度、電話ボックスに走った。
電話を済ませ、車に戻ると、隣の赤い車はすでに消えていた。
車内に入り、金森幸介を見ると、先ほどの引きつった顔から
もはや、涙目ウルルン状態になっていた。
「あ、あんた泣いてんのね?なんかあったん?」と聞く私に
放心状態の彼はこう口走った。
「こ、この 悪魔 この 悪魔...」
私が電話をかけに行ってすぐ、隣の車の持ち主が戻ってきたらしい。
それがなんと、一見してその筋の者だと分かる巨漢男二人組だったとの事。
間隔無く駐めていたこちらの車が、乗車時にしごく邪魔だったようで、
金森幸介は数分間、チャカちらつかせた二人のヤ○ザにすごまれたらしい。
理不尽な政治力にはめっぽう強い金森だが、そっち方面には、アリより弱い。
サイフを取りに戻ったのが、ちょうどそのさなかだったらしいのだが
私が脳天気にもまた行っちゃった為、アワワワ状態だったのだ。
それから、数ヶ月、私は金森幸介から「悪魔くん」の烙印を押され続けた。
私には言い返す言葉は無く、冷たいそしりに耐えた悲しい日々だった。