納涼奇談 地下鉄にのって

最近では自己規制か、メディアでもあまり取り上げられることもなくなりましたが
「心霊写真」と呼ばれるものがありますね。
みなさんは心霊写真の存在を信じておられますか?
私は信じます。心霊写真という名称はともあれ、
常識では理解できない不可思議なモノが
写真に写り込んでしまうことはあると思います。
とにかく私は信じます。
何故なら不可思議なモノと同席する被写体になった経験が過去にあるからです、
今宵は暑気払いに私と私の友人たちの怪奇な体験を語りたいと思います。

今からもう、20年以上も前の話である。
その夜、金森幸介&The Mellowのライブが大阪Banana Hallでおこなわれた。
打ち上げを終え、私はMellowのメンバーS君とK君、
そしてサザンブリードのメンバーだったH君と共に
西梅田駅から地下鉄四ツ橋線に乗り込んだ。
確か終電か、それに近い非常に深い時刻だったと記憶している。
車両には我々以外の乗客は皆無であった。
S君とH君、そして私が並んで座席に腰掛け、K君が向かい合わせの座席に座った。
まだ若かりし我々は上機嫌だった。はしゃいでいた。
カメラマンであるK君が我々三人を撮影した。我々はともかくフザケていた。
当然デジカメなどではなく、鈍重な一眼レフでのスナップ撮影だった。
K君は「激写!激写!」などと叫んで(古いなあ)我々のアホな姿を連写した。

何日か経って、スタジオで出会ったK君が
「ああhiro、この前の写真プリントできたで」と
D.P.E.店から引き取ってきたばかりの袋を手渡して「先に見てええで」と言った。
自宅に帰った私はさっそく写真をチェックしてみることにした。
ライブの楽屋でのメンバーたちの様子、もちろん金森幸介の姿もある。
皆、ご機嫌である。不機嫌や憂鬱な顔などどこにもない。
ギャラも出ないし、誰も褒めてもくれない。でもみんなハッピーである。
今思えば、若いっていうのはやはりそれだけで真実である。翳りとは無縁である。
一枚一枚のすべてが若さという刹那を切り取って輝いている。
若さとは真実であると共にアホである。
すべての写真はアホらしくも誇らしく輝いていた。
最後に地下鉄車内で撮影した写真もアホ満開であった。
「悩み事ないんかい!」と思わせるはしゃぎようのS君、H君、そして私である。
座席に腰掛けてピースサインを掲げ、鼻の穴に指を突っ込んでいるボンクラもいる。
私だけど。

そんな連写アホ写真の中に一枚、空気の異なった一枚があるのに気づいた。
その一枚だけ我々三人が揃ってうつむいているのである。
それまでとはうって変わってローテンションな我々である。
両手をダラリと座席に落としてガックリと下をむいている三人...
あの夜、あの列車の中でそんな体勢をとった記憶はまったくない。
明らかに他の写真とは温度、空気感が違う。別世界の別人のようである。
「なんや、これ?」と訝しく思いつつ、その一枚を凝視して私は凍てついた。
魂を抜かれたように下をむく三人の背後、地下鉄の暗闇の中から窓ガラス越しに
我々三人を見つめる顔が四つ...みな修羅のようにおぞましく怒った表情である。
まさに呪いの顔である。「のように見える」ではなく、はっきりと人面である。
湿った地下洞穴に幽閉された四つの顔が疾走する地下鉄の窓越しに、
我々に対して呪いをむけているのである。
震え上がるほどの恐怖に襲われた私は深夜にも関わらず、H君に事の次第を電話し
H君の自宅に車を飛ばして彼の部屋に泊めてもらったのである。

その写真は今でもS君の家のどこかに保管されていると聞く。
心霊写真の呪い?
不可思議な写真の存在は信じているが、霊障などと言われるものは私は信じない。
もし不幸な死に方をされた方々の無念がそこに残留しているのなら、
ご冥福を心からお祈りするが、我々は呪われるようなことはなにもしていない。

H君はそれからまもなく大失恋をくらい、S君はその後果たした結婚が失敗に終わり、
撮影したK君に至ってはホモセクシャルに走ったという噂を聞いた。
そして私はこんな冷や飯喰らいの体たらくである。
しかし、それらは写真の呪いというより個々の資質、行いの結果だと私は思いたい。
ここだけの話、本当に恐ろしいのは死霊の呪いより女性の生霊である。
...と金森幸介もしみじみ語ったとか。
くわばら くわばら 桑原のおばあちゃんですよ。お入りください。ありがとう。