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TRIP#11 「50?」

旅はいつもの待ち合わせ場所で、金森幸介を車に乗せるところから始まる。
金森幸介は大阪から名古屋の僕の住居に最も近い地下鉄の駅まで来てくれる。
それは初めての待ちあわせ以来ずっと続いている。ギターと何日分もの荷物を
持っていては大変だろうと、名古屋駅まで迎えに行くと言っても一度として
聞き入れたことはない。そういう人なのだ。
その地下鉄の駅から地上に出たあたりに、品揃えが僕好みのCDショップがあり
店の前には、よく晴れた日なんか気持ちのよさそうなベンチが置いてある。
多くの場合、金森幸介はそのベンチに座って本を読んでいるか、ぼーっとしている。
この脳天気そうな風景が旅の始まりを告げているのだ。
しかし、2年前のあの日、幸介の姿はそこになかった。
それは突然降り出した雪のせいだ。幸介はどこかの軒下から現れた。
車に乗り込んできて「けっこう降ってるけどだいじょうぶかあ」と言った。
だいじょうぶ、と言いつつも積もり始めた雪に立ち往生している車があるらしく
待ちあわせ場所からちっとも進まない。雪は激しくなっている。
「おもしろい企画が浮かんでなあ」幸介が話し始める。僕はラジオをつける。
大寒波が到来して各地で大雪になっているという。不安になり始める。
「もう自分でもこれはおもしろ~い思てなあ!」テンションが上がりはじめる。
待ち合わせた直後はお互いいつもテンションが高く、ギャグの応酬となる 。
きっとなんか冗談を言うのだろうと思う。動かない車。降りしきる雪。
だいじょうぶかなあ、と本気で思い始める。
「5枚組のCD作ったらおもしろいと思うねん!」「え~?そーかなあ?」
どこがおもしろい?。適当に相づち打っとこ。雪が気になる。
2ヶ月半前、三年越しで完成した「ロストソングス」が出たばかりだった。
僕らは全ての気力と体力を使い果たし、疲れ果て、のんびりと正月を過ごしていた。
今年は金森幸介の録音はないだろうと。
「3月で50歳になるしな・」金森幸介もう50、かあ。2001年1月時点である。
高速道路の通行止め情報が入りだした。僕らは長野県飯田市に行こうとしている。
中央高速が通行止めになると大変だ。僕はあせりはじめる。
「1枚に10曲で50曲!」あまりおもしろくないのにひっぱるな~、と思う。
出発直後に動けなくなるなんて、はじめて経験する。果たしてたどり着けるのか?
今まで中止にしたことは一度もない。
「それで50組限定!」交通情報を聴き逃すまいと必死になる。
道という道が大渋滞と なっているらしいことがラジオからわかる。
「おもしろいと思うけどなぁ」まだ言うてるな。いらいらしてくる。無視しよ。
そしてついに、中央高速が通行止めになったと交通情報が発表。
たどり着くにはどうしたらいいのか?一般道は八方塞がり、地図を睨む。
僕の頭に「中止!」の二文字が浮かぶ。決断しなければならない状況に来ている。
頭がフル回転した。やばいぞ!
「50歳で5枚組!50曲!50組限定っ!」 天から大粒の雪がひっきりなしに舞い降り、
傍らではとんでもないことを言い出す男。


「で、タイトルは50/50! どやっ!」
  「ひ、ひふてぃ、ひふてぃ~っ  ? 
  五まいぐみぃ~? 雪も降るっちゅーねんっ!」

       
結局我々は7時間半かかって到着し、翌日1時間半で戻ってきた。
50/50は予定より大幅に遅れて完成し、完売した。


ウオーレン・ジボンよ、永遠なれ。


  HAVE A GOOD TRIP!

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